ガンドラック氏: 米国の財政赤字がドル暴落と米国債デフォルトに進化するまで人々は懲りない

引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の、トニー・ロビンズ氏によるインタビューである。

今回は、アメリカの財政赤字の問題がなぜなかなか解決しないのかについて語っている部分を紹介したい。

アメリカの財政赤字

これまでの記事で、ガンドラック氏はアメリカの財政赤字の問題が差し迫っていると主張していた。コロナ後のインフレで金利が上昇し、米国債には多額の利払いが発生しているからである。

トランプ政権のスコット・ベッセント財務長官はそれに取り組むと言っているが、ガンドラック氏はその言葉に懐疑的である。

ガンドラック氏によれば、結局米国債とドルは一度価値を失うしかないという。

米国債の利払いを新たな借金で支払う負のスパイラルから抜け出せないなら、そうなるほかない。だが、何故アメリカの債務問題はここまで悪化してしまったのか。

債務問題を解決する方法

例えば、ハイパーインフレから奇跡の復活を遂げようとしているアルゼンチンは、ハビエル・ミレイ大統領のもとで政治家による政府支出を徹底的に減らし、借金のない経済成長を実現しようとしている。

だがアルゼンチンにそれが出来たのは何故だろうか。

ガンドラック氏は、アメリカが債務問題を解決するために取るべき道筋について次のように語っている。

問題を解決するには、まず問題の存在を認めなければならない。

アメリカでも日本でも、人々は長年政府債務が問題だと認めなかった。債務はいくら増やしても良く、紙幣印刷をいくら行なってもインフレにならない限り何の問題もないと主張してきた。

そしてインフレになった。何の冗談だろうか。

人々が問題を認識するまで

それで人々はほんの少しだけ問題を認めるようになった。少なくともインフレ政策はインフレを目指していたのだということは理解するようになったのではないか。

だがそれでも人々は問題の大きさを理解しているようには見えない。アベノミクス以来、日本円の価値がドルに対してほぼ半分になっても、それを大して問題だとは思っていないように見える。

だがその円安は輸入物価を確実に倍にし、それは生鮮食品などの物価をじわじわと上げてきている。日常的に買い物をしている人ならば誰でも分かるだろう。

だがそれでも人々は本気で政府を止めようとしているようには見えない。

ガンドラック氏は次のように述べている。

それが問題だと認めるには時間がかかる。皆がそう認識するとき、ようやくそれを解決することができる。

臨界点と崩壊

実際にそれが起こったのが、ミレイ大統領のアルゼンチンである。政治家の行う政府支出が国内経済を徐々に悪化させ、最後にはハイパーインフレを引き起こすに至って始めて、アルゼンチン国民は緩和政策の問題に気付いた。

それでようやくアルゼンチンは、税金とは納税の強要だと言い放つミレイ大統領を生んだのである。

要するに、人々は日本円の価値が半分になったくらいでは懲りないのである。人々が本当にこんなことは続けられないと悟るためには、ハイパーインフレくらいのことは起きなければならない。そしてそれまで状況は悪化し続ける。

もしかするとそれはハイパーインフレではないかもしれない。日本ではそれは第2次世界大戦後の資産没収のようなものになるかもしれない。

だがそれは大した問題ではない。重要なのは、そこまで状況が危機的にならなければ人々は悟らないということである。

転換点とその後

一方でアルゼンチンの件に戻れば、ハイパーインフレからミレイ大統領への変わり身の速さは何だろうか。あまりに過激な転換ではないのか。

ガンドラック氏によれば、転換点に達した国は驚くべき速度で改善に向かってゆく。ガンドラック氏は次のように述べている。

ひとたびそうなれば、驚くべき速度で解決することになる。皆の目がようやく開かれた時、誰もが「こんなことはこれ以上続けられない、変えなければならない」と言う。

興味深いことに、ガンドラック氏が例に挙げるのはカリフォルニアの大火事である。

カリフォルニアでは野党民主党が強く、950ドル(約15万円)以下の窃盗が重罪にはならないとの法律が通ってから窃盗が急増し小売店が軒並み閉店するなどの状況に陥っていた。

この法律は最近撤廃され、「犯罪がようやく違法になった」などの皮肉が言われた。

イーロン・マスク氏もそうだが、カリフォルニアのリベラルぶりに嫌気を指す人は多かったのだが、引越しはなかなか大変である。

多くの人の重い腰はなかなか動かなかったのだが、火事で家を失ってようやく他州への引越しを考えることになる。

ガンドラック氏は次のように述べている。

カリフォルニアから出ることも同じだ。皆億劫でやりたがらなかった。だが突如やらなければならなくなる。

結論

日本やアメリカがアルゼンチン人と同じ悟りを開くためには、これからどれだけの苦難が必要だろうか。

少なくとも言えることは、アルゼンチンとその他先進国では長期サイクル上の位置が全然違うということである。

日本とアメリカを待っているのは通貨安と国債の価値暴落である。アルゼンチンでは、その多くは既に終わりつつあり、新たなサイクルが始まっている。

レイ・ダリオ氏は、サイクルによって持つべき資産は変わると言っていた。サイクルの終わりでは株式ではなくゴールドを、新たなサイクルの始まりにはその国の株式を買うようにとのことである。

この観点から考えれば、以下のアルゼンチン株ETFのチャートは、短期的にはかなり上がっているが長期的に見ればとても長いサイクルの始まりなのかもしれない。

株式に長期投資する時には、長期サイクルを考えることが非常に重要である。詳しくはダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』を参考にしてもらいたい。


世界秩序の変化に対処するための原則