ガンドラック氏: 基軸通貨ドルは一度崩壊してから再生する

引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の、トニー・ロビンズ氏によるインタビューである。

今回は基軸通貨ドルの見通しについて語っている部分を紹介したい。

アメリカの財政赤字

ガンドラック氏はこれまでの記事で、アメリカの財政がかなり差し迫っていると述べていた。

コロナ後の金利上昇で米国債の利払いはGDPの約4%、財政赤字の半分以上に達しており、アメリカはその借金を新たな借金増加によって賄っている。

それで米国債の大量発行が問題になっている。ガンドラック氏によれば、次に景気後退があって赤字が更に増えた場合、国債市場は発行される国債をもはや受け止めきれなくなる。

ガンドラック氏によれば、その時には遂に年金に手を付けなければならなくなる。

米国政府の支払い義務

アメリカの政府債務がどれだけ危機的かを知るためには、米国債の利払い以外に良い数字がある。ガンドラック氏は次のように述べている。

米国政府が今後支払わなければならない金額を考えれば、現在のドルの強さのまま支払うことはシンプルに不可能だ。購買力が足りない。資産が足りない。

アメリカが持つすべての金融資産を合わせても、米国政府の支払い義務には足りない。すべての金融資産だ。アメリカには212兆ドルの金融資産がある。だが米国政府の支払い義務はそれよりも大きい。

前回の記事でガンドラック氏は、政府債務に将来の年金の支払いなどを合わせた米国政府の負債総額は220兆ドルだと指摘していた。

つまり、経済大国アメリカがすべての資産を売り払っても、米国政府の借金を返すことは出来ない。

インフレと通貨安で借金を返す

もうこれだけでドルが長期的に下落しなければならないのは火を見るより明らかなのである。ドルに長期投資している人は考えた方が良い。

ガンドラック氏は「現在のドルの強さのまま」では借金を支払えないと言っている。裏を返せば、ドイツが第1次世界大戦の賠償金をハイパーインフレで返したように、ドル建ての借金の価値が大きすぎるならば、ドルの価値を下げるほかないのである。

それは、レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説している基軸通貨ドルの終焉シナリオである。

ドルの価値は大幅に下がり、米国債の一部はデフォルトする。中央銀行が国債救済のためになりふり構わず紙幣印刷する可能性もあるが、それは本当のアルゼンチンシナリオである。

だからドルの大幅下落と米国債のデフォルトがメインシナリオだろう。ガンドラック氏は次のように言っている。

ドルが基軸通貨でなくなれば、もちろん中期的には破滅的だ。

「一度だけだ、もう絶対にしない」などと言うことになるだろうが、人々は懐疑的な目を向けるだろう。

米国債がデフォルトし、ガンドラック氏が言っているようにアメリカの負債がそもそも返済不可能なものだと人々が認識すれば、誰もアメリカにお金を貸さなくなるだろう。

借金のないアメリカ

それは現在からは想像しがたいシナリオだ。だが、コロナ前まではインフレさえ想像しがたかったではないか。

そしてガンドラック氏の考えは理にかなっている。他にどうなるというのか。

誰もアメリカにお金を貸さなくなる。アメリカは借金が出来なくなる。だが待ってほしい。政府が借金できなくなる? それは悪いことなのだろうか?

ガンドラック氏は、ドルの大幅下落と米国債のデフォルトについて次のように言っている。

だが長期的にはプラスだ。財政規律を守らなければならなくなるからだ。

何世代かの間、誰もアメリカに金を貸してくれなくなる。良いことだ! 何世代かの間、まともな予算案を組まなければならない。何と良いことだろう。まともな財政政策。まともな国庫管理。素晴らしい。

結論

それはアルゼンチン人がハイパーインフレの後にたどり着いた境地である。アルゼンチンはハイパーインフレに懲りた後、ミレイ大統領のもとでまともな財政の道を進みつつある。

だがアルゼンチン人はハイパーインフレに懲りたからそれが出来たのである。そこにたどり着くまでにアメリカはどれほどの痛みを受け入れなければならないだろうか。

ガンドラック氏は次のように言っている。

それはその後数世代にわたる繁栄の時代に繋がる。だがその前に非常に困難な時期が来る。

単純に数字を眺めれば、ドルの長期的下落は不可避であることが分かる。問題はタイミングだが、コロナ後、そのタイミングは急速に近づいているように思える。

ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想しているアメリカの覇権の終わりが、もしかしたら今年から始まるのかもしれない。

ガンドラック氏は次のように言っている。

レイ・ダリオ氏、わたしが話していること、ニール・ハウ氏、みな同じだ。


世界秩序の変化に対処するための原則