ガンドラック氏: アメリカの債務危機、ベッセント財務長官の財政赤字削減案は実現不可能

引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のトニー・ロビンズ氏によるインタビューである。

今回は、トランプ政権で財務長官に任命されたスコット・ベッセント氏についてのガンドラック氏のコメントを紹介する。

アメリカの債務問題

前回の記事では、ガンドラック氏はアメリカの財政赤字の問題が差し迫っていることを指摘していた。

コロナ後のインフレによる金利上昇で、アメリカの大量の政府債務には多額の利払いが生じている。米国政府はこの借金の利払いを新たな借金によって支払っており、債務は雪だるま式に増えようとしている。

トランプ大統領によって財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏はこの状況を認識しており、現在6%を超えているアメリカの財政赤字を3%まで減らすという目標を立てている。

元ソロスファンドのベッセント氏

ベッセント氏は、普通の財務長官とは違う。ベッセント氏は元々ジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementの運用を任されていたヘッジファンドマネージャーであり、資産運用業界でも世界的に有名な人物である。

つまり、ベッセント氏は他の政治家とは違って相場を知っている。だからガンドラック氏の懸念している米国債の状況を間違いなく理解しているはずである。

そのベッセント氏は、財務長官就任にあたってアベノミクスをもじった3つの目標を発表している。3%の財政赤字、3%の実質経済成長、原油の産出量の増加によるインフレ率低下である。

ガンドラック氏のベッセント氏批判

だがこのベッセント氏の提言は、筆者が見る限り単に目標を立てただけであって、それをどうやって実現するのかについての詳細にベッセント氏は踏み込んでいない。

ガンドラック氏も同じ印象を受けたのか、ガンドラック氏は結構痛烈にベッセント氏のこの提案を批判している。

ガンドラック氏は次のように言っている。

スコット・ベッセント氏は3本の矢の話をしていた。3%の財政赤字と3%の経済成長。

3%の財政赤字と3%の経済成長の目標の問題は、それらはほとんど互いに矛盾しているということだ。

ガンドラック氏はベッセント氏の目標は実現不可能だと考えている。理由は次の通りである。

財政赤字を7%から3%に削減すれば、3%の経済成長は無理だ。何故ならば、それはGDPを4%引き下げるからだ。それは無理だ。

もし読者の頭の中にGDPの定義式があれば、ガンドラック氏の論点が理解できるだろう。

財政赤字は例えば政府支出のために必要となっているわけだが、政府支出はGDPの定義式にそのまま含まれる。だから政府支出は、それがどれだけ意味のない支出であったとしても、定義上そのままGDPを引き上げる。

逆に言えば、政府支出をなくせばその分そのままGDPが減るということである。だから財政赤字を4%減らせば、GDPが4%減るとガンドラック氏は主張している。

債務状況は悪化する

ガンドラック氏は、ベッセント氏の提案がそもそも真剣なものではないと主張している。だがガンドラック氏によれば、財政赤字の議論はすぐに真剣なものにならざるを得ない。

ガンドラック氏は次のように述べている。

こうした議論がもっと真剣になるのは、経済が減速しているにもかかわらず長期国債の金利が上がり始める時だ。

税収が減るにもかかわらず、金利が上がる。

ガンドラック氏は、このまま借金が増え続け、債券市場に大量の国債が流入し続ければ、国債価格が下落し、金利が上がると予想している。

そうなれば既に差し迫っている米国債の利払いは更に増加することになり、アメリカは本当に年金に手を付けなければならなくなるだろう。

結論

コロナ前までは、政府債務はどれだけ増やしてもよく、どれだけ紙幣印刷を行なってもインフレにならない限り何の問題もないということがまことしやかに話されていた。

そして彼らの主張が完全に正しいことがすぐに証明された。インフレが生じて債務を増やせなくなったからである。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏がコロナ初期の2020年5月に吐いた名言を思い出したい。彼は次のように言っていた。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

だが誰も耳を貸さなかった。そして現金給付がインフレを引き起こした。

一方でダリオ氏は淡々と歴史研究を行い、大英帝国などアメリカ以前の覇権国家が債務増加とインフレによって衰退していったことを著書『世界秩序の変化に対処するための原則』に纏めて出版した。

次はアメリカの番だと言わんばかりである。そして世界経済はその後実際にインフレになり、金利が上がってアメリカの財政は危機に瀕している。ダリオ氏の想定通りである。

ガンドラック氏は次のように言っている。

これがわれわれが自分を自分で追い込んだ状況で、それはもうすぐそこまで来ている。


世界秩序の変化に対処するための原則