世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログで新たに出版する新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)の内容を紹介している。
今回の記事では投資家が金相場で儲けるためのやや専門的な話をしている部分を紹介したい。
コロナ後のインフレとゴールド
ダリオ氏の新著は、名前の通り国家の破綻に備えるためのものである。ダリオ氏はコロナ後に、アメリカ以前の歴史上の覇権国家がインフレと債務膨張によって衰退していったプロセスを分析した前著『世界秩序の変化に対処するための原則』を出版している。
その後、世界は実際にインフレになり、2025年には多くの機関投資家がアメリカの債務問題について警鐘を鳴らしている。
マクロ経済学の祖であるアダム・スミス氏も言うように、インフレとはものの価値が上がることではなく、通貨の価値が下がることである。
だからドルや日本円から資金が逃避し、ゴールドやビットコインが上がっているのである。
金価格の決定方法
だが金価格はどのように決まるのか。インフレや利下げなら上がると言うが、1%のインフレや利下げで金価格はどれくらい上がるのか?
ダリオ氏のような機関投資家はゴールドの適正価格を考えるための枠組みを持っている。「ゴールドが上がるから買う」ではなく、どれくらいの金利やインフレの変化で金価格がどれだけ上がるのかを実際に計算するのである。
その指標となるのは国債の価格である。ダリオ氏は次のように述べている。
ゴールドへの投資を債券への投資と比較し、両者の相対的な価格を決定する方法について考えてみよう。
ダリオ氏もよく言うように、国債の金利はすべての金融市場の屋台骨となっている。機関投資家は皆それを知っているから金利の変化を気にしている。
だがそれは具体的にどういうことなのだろうか。ダリオ氏は次のように説明している。
ゴールドには金利がなく、米国債にはいくらか(例えば5%)の金利がある。だから金価格がいくらか(例えば年5%)上昇すると予想するのでなければ、投資家がゴールドを買うのは不合理だということになるだろう。
言い方を変えれば、市場は金価格が米国債よりも5%高くなってゆくことを織り込んでいる。
投資家は国債とゴールドを投資対象として比較する。だからこそ国債を基準にゴールドや他の金融資産の価格を考えることができるのである。
もちろんゴールド自身の魅力もある。だが同時に、すべての金融資産は他の金融資産との競争に晒されている。
このように、資産価格はそのものの価値と他の資産との競争の2つの要素によって決まる。ダリオ氏は次のように続けている。
投資家は何が金価格を変化させるか(例えば主因の1つはインフレの大きさであり、それは新たに生み出される貨幣と信用の量に基づいている)についての意見を形成し、その上で国債の5%の金利とどちらが魅力的か、そして金価格が通貨の価値下落によってどれだけ上昇するかを考える。
ファンダメンタルズで決まる金価格
ダリオ氏は次のように纏めている。
投資家が金価格の上昇は5%未満だと考えれば、ゴールドは売って国債を買った方が良い。金価格が5%を超えて上昇すると考えれば、その逆をするだろう。
逆に言えば、国債の金利が4%に下がれば、その分ゴールドの価格も調整されるということになる。それが金利が金価格に影響を与えるメカニズムである。
ダリオ氏は次のように続ける。
この単純な価格分析の上に、多くの金融工学(レバレッジやヘッジなど)が積み上げられ、相対的なトレードや裁定取引が行われて複雑な価格同士の関係が構築されている。
投資家が金融市場で儲ける方法
金融市場では、その資産そのものの魅力を考えることのほかに、国債の金利と比べてその資産は魅力的と言えるかどうかが考えられている。
そうした観点から資産の相対的な価格を考える取引のことを裁定取引という。あるいは裁定取引を専門にするヘッジファンドでなくとも、国債の金利を中心に金融市場を見ているのである。
ダリオ氏は次のように述べている。それは金融市場で投資家がお金を儲けるための本質である。
金融業界では、大量の資金がこのようにして振り分けられている。こうした銘柄の選択がもし簡単であれば、大金を稼ぐのは容易だろう。だが実際にはそうではないので、金融市場はこうした予想や価格決定についてかなり良い仕事をすると想定するほかない。
だが市場が完全に完璧であれば、わたしのような機関投資家は投資で成功することができない。だから、市場は完璧ではなく、自分が他の人より深い理解を持っている分野ではお金を稼ぐ機会があると考えられるのだ。
ダリオ氏が国家の衰退についての新著を書く意図が正しければ、金価格は今後の紙幣の価値下落を織り込んで上がってゆくことになる。
それは覇権国家アメリカの衰退とリンクしている。過去の覇権国家の衰退を分析したダリオ氏の前著『世界秩序の変化に対処するための原則』も参考にしてもらいたい。
世界秩序の変化に対処するための原則