引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のAll-In Podcastによるインタビューである。
今回はインフレによる資金逃避と政府による資産没収について語っている部分を紹介したい。
紙幣印刷と紙幣の価値
前回の記事で、ダリオ氏は政府によるばら撒きで紙幣の価値が下がり、そのことがゴールドやビットコインの価格上昇に繋がっていると主張していた。
要するに紙幣から人々は逃避して、別の資産に資金を逃している。紙幣は政府によって自由に印刷され、いつでも価値を薄められる可能性があるからである。それが実際にコロナ後に起こり、インフレに繋がった。
だが今回の記事ではこの話をもう少し厳密に考えたい。なぜ紙幣の代わりがゴールドやビットコインなのか。
ダリオ氏は次のように述べている。
人々は紙幣印刷で損をする資産ではなく、恩恵を受ける資産に資金を移そうとする。
それがゴールドが買われている理由だ。ビットコインも話題になっている。
ゴールドもビットコインも金融緩和に恩恵を受ける。紙幣はそれによって価値を薄められるが、貴金属や暗号通貨は逆である。
それが1つの理由である。だが、ダリオ氏は今回別の理由も挙げている。
紙幣の代わりとして理想的な資産
ダリオ氏は、紙幣の代わりとなる資産として理想的な条件を次のように挙げている。
理想的には、国家を超えて移動可能で、自分で密かに所有できる資産が良い。その方が安全だからだ。
歴史的には、価値の問題のほかに資産没収の問題がある。
アメリカの財政がかなりまずい状況にあることは、ここの記事では何度も報じている。
ダリオ氏はこの問題が悪化することを見据えて、新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)を出版しようとしている。歴史上、大国がどのように破綻していったのかを研究した大著である。
わざわざそんな名前でそんな研究を発表するのは、アメリカなどの先進国がその状態に近づいているとダリオ氏は考えているからである。
歴史研究で知られるダリオ氏にとっては、資産没収は過去に何度でも起きている出来事である。日本でも戦後、最大で資産の90%を課税する財産税が実行され、日本人の財産のほとんどは政府に奪われた。
「戦争にならなければ」と人は言うかもしれないが、現にウクライナやパレスチナで戦争が起こったではないか。ダリオ氏は戦争が起こることさえ前著『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想していた。
ダリオ氏は次のように言う。
資産没収とは例えば税金の形で行われる。
そして税と資産没収は同じことだ。
資産没収から逃れるための投資対象
ダリオ氏はそうした自体に備えて保有する資産を考えるべきだと言う。ダリオ氏は次のように述べている。
例えば不動産は動かせない。つまり国家を超えて移動可能ではない。だから不動産を税で取り押さえるのは容易だ。常にそこにある。
ゴールドならどうか。少なくともゴールドは持ち運べる。ビットコインもパスワードを紙などに書けば持ち運べる。
ここからは筆者の見解だが、資産没収まで視野に入れるならば、ゴールドならETFではなく現物を保有すべきだし、ビットコインなら規制対象となっている取引所を使うべきではない。
ゴールドは、現物を買ってしまえば後は重さくらいが問題になるだろうか。ビットコインは、身分証明書を持って取引所を使うようなことをしないとしても、IPアドレスの問題がある。IPアドレスの問題を仮にクリアしたとしても、これまでの取引はすべてブロックチェーン上に記録されているので、そこから生じる問題はある。資金を使う時には自分が使わざるを得ないからである。
結局、暗号通貨でこの問題を完全にクリアするためには、ビットコインではなくプライバシーが改良された別の通貨を使う必要がある。前から言っているが、そうすれば暗号通貨はかつてスイスのプライベートバンキングが行なった政府との全面戦争に突入することになるだろう。
ビットコインが政府から許されているのは、そのプライバシーが不完全だからである。現実に、プライバシーが強化された暗号通貨は既に政府によって別の扱いを受けている。
ダリオ氏の懸念は今すぐに起こるようなことではない。今の状況からそこに至るまでどれだけの時間が必要なのかは、前著『世界秩序の変化に対処するための原則』に書かれた過去の例を参考にできるだろう。
だが恐らく、読者の大半が生きている間にそれに近いところまで行くのではないかと筆者は考えている。ダリオ氏の知識が人生上必要となる。

世界秩序の変化に対処するための原則