世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、All-In Podcastのインタビューでアメリカの財政問題とゴールドおよびビットコイン相場について語っている。
アメリカの財政赤字
誰もがアメリカの財政赤字について語っている。2025年の相場のテーマがそれだからである。
アメリカでは米国債の利払い費用が急増しGDPの4%に達しようとしている。
コロナ後の莫大な財政赤字と金利上昇によって、莫大な政府債務に多額の利払いが発生したからである。
アメリカのこの状況はマズいのだろうか。ダリオ氏は今、『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)というタイトルの新著を出そうとしている。内容については徐々に報じている。
歴史上の覇権国家が衰退していった経緯を研究し、大国が衰退してゆく条件について詳しく述べた本である。
覇権国家が破綻する条件
大英帝国やオランダ海上帝国など、アメリカ以前の覇権国家は債務とインフレで破綻していった。アメリカでもコロナ以後、債務とインフレが問題になっている。
だからダリオ氏はこの本を書いているのだが、覇権国家が破綻に向かうきっかけとは何か。ダリオ氏は次のように述べている。
まず借金を返すために新たに借金を増やす状況になる。企業でも政府でもそうだが、負債のスパイラルと呼ばれる状況だ。
負債が多すぎて、借金を返すために借金をしなければならない。
アメリカでは、今財政赤字は6%程度であり、その内4%ほどが米国債の利払いである。勿論借金漬けの米国政府には利払いをする資金はないので、これらはすべて新たな国債発行で賄われる。
日本でも政府は存在しない資金を国債発行で補ってきたが、それが出来るのも金利が上がらない内だけなのである。だが日本でも金利は上がっている。
負債のスパイラル
インフレ政策はゼロ金利政策を保てる間だけ機能した。だがインフレ政策が本当にインフレを引き起こしてしまった時、莫大な政府債務に利払いが生じ、借金を新たな借金で返す負債のスパイラルが始まる。
そして今年、機関投資家は誰もがアメリカの財政赤字の話をしているように、投資家はそれに気づき始める。
そしてそれは更なる問題を生む。ダリオ氏は次のように述べている。
投資家は財務状況が悪いと気付き、信用状況は悪化する。それは金利が上がることを意味する。それは多額の債務を背負った組織にとっては最悪の状況だ。
信用状況の悪化は金利上昇を生むが、金利上昇が借金の利払いを増やし、債務状況を悪化させることで信用状況を更に悪化させる。
これこそが債務のスパイラルである。ダリオ氏は次のように述べている。
金利が上がり始めるとスパイラルが開始する。どんどん借り入れが増えてゆく。
債務のスパイラルの結末
このスパイラルは何処に行き着くのか。国債は下落し続け、金利は上がり続けるのか。
ダリオ氏は次のように続けている。
最大の赤信号は、発行される国債に加えて既存の国債保有者が国債を売り始め、金融市場で短期金利が上がっていないかむしろ下がっているのに、長期の金利が上がってしまう時だ。
それはまさに今アメリカで起こっていることである。アメリカでは去年9月から利下げを始めたにもかかわらず、10年物国債の金利はむしろそこから上昇している。
ドルから逃避する投資家
インフレ、そして金利上昇(つまり国債価格の下落)は、つまりは通貨から投資家が逃げ出しているということである。
そして逃げ出した投資家の資金はどこに行くのか。ダリオ氏は次のように続けている。
そして同時に通貨がゴールドやビットコインなどの他の資産、他の通貨に対して下がり始める。
だがこうしたことは連動する。つまり、ゴールドやビットコインや他の現物資産などに対し、すべての通貨が同時に下落する。それが今の状況だ。
今年になって誰もが強調していることだが、ゴールドやビットコインが上昇している現象は、実際には通貨の価値が下がっているのである。
それにいち早く気付いた人は資金をゴールドやビットコインに逃避し始める。だからまずそこだけの価格が上がる。
そして一般の人々が気付く頃には、すべてのものの価格が上がり始める。だがそれは実際には、ものの価値が上がっているのではなく、財布に入っている紙幣の価値が暴落しているのである。
ここまで読めば、アメリカとその他の先進国が国家の衰退フェイズに明らかに入っていることが分かるだろう。
ダリオ氏の新著の出版はもうすぐである。前著『世界秩序の変化に対処するための原則』にはアメリカより前に大英帝国やオランダ海上帝国が衰退していった様子が説明されているので、未読の人は読んでおくことをお勧めする。
世界秩序の変化に対処するための原則