フォン・グライアーツ氏: 2025年のインフレは2年前よりも深刻な銀行危機を引き起こし、中央銀行は量的緩和を再開する

引き続き、Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏の自社配信動画である。今回はインフレは2025年以後も継続すると予想するフォン・グライアーツ氏が、その経済への影響について語っている部分を紹介する。

インフレとゴールド

前回の記事では、フォン・グライアーツ氏は政府発表のインフレ率の数字が本当に正しいのかということに疑問を呈していた。

フォン・グライアーツ氏によれば、インフレとはものの価値が上がることではなく、誰もが持っている紙幣の価値が下がることであり、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で検証したように、歴史上すべての通貨は政府によって長期的に価値が下げられているから、紙幣ではなくゴールドなどの現物資産を保有すべきだと奨めていた。

フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

ゴールドはまず何より物理的に存在する現物資産で、銀行システムの外にそれを保有できる。それはあなたの資産であって、他の誰にも依存していない。

ゴールドならば紙幣のように中央銀行が勝手に印刷し、あなたの財布に入っている内に毎年価値が薄められてゆくということもないということである。

紙幣と国債の関係

先進国の人々がインフレに気付き始めて紙幣から貴金属やビットコインなどに逃避していることに加えて、ドルを使った経済制裁を恐れてBRICS諸国や中東諸国がドルから逃げているという事実がある。

そして思い出したいのは、元クレディ・スイスの天才ゾルタン・ポジャール氏が、ドル離れの結果はドルの下落よりも米国債の暴落だと言っていたことである。

ドル離れということは、米国債離れということでもある。ドルを保有して金利をもらう場合、その金利は国債から来るからである。

だがこれは紙幣と国債についても同じことが言える。人々が紙幣から逃避しているということは、銀行は人々から預かった預金で国債を買うので、国債離れということでもある。

そうすると何が起こるか。2023年に、利上げによる米国債の価格下落でシリコンバレー銀行などの大きな地方銀行が破綻したことを思い出したい。

実際、2025年が始まってから10年物米国債の金利は上昇し続けている。金利の上昇は国債価格の下落を意味する。

市場はトランプ新政権が財政赤字を縮小するとは信じていないようだ。

銀行危機 2.0

だからフォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

銀行システムは崩壊の危機にある。

質の悪い債務が積み重なっており、このまま行けば、シリコンバレー銀行やスイスのクレディ・スイスが破綻した2年前よりも重大な問題が銀行システムに生じる可能性が高い。

シリコンバレー銀行は十分巨大な銀行だったし、クレディ・スイスは世界的な銀行だったのだが、結局こうした銀行危機を受けてFed(連邦準備制度)は金融引き締めで市場から資金を吸い上げることを止めてしまった。

その結果、世の中の預金と現金の総額であるマネーサプライがまた増加に転じている。

結局、アメリカはコロナ後の現金給付でばら撒かれた資金を回収することが出来なかったのである。利上げをして景気後退になっていない理由はそういうことである。

だがこのままマネーサプライが増え続け、インフレが再上昇に転じるとまたシリコンバレー銀行と同じことが起きるだろう。それがフォン・グライアーツ氏の予想である。

彼は次のように述べている。

その銀行危機は深刻なものとなり、それは大量の紙幣印刷に繋がる。それは紙幣印刷ではもはや銀行を救済できないところまで行く。

だからこそ銀行システムの外に現物資産を持つ必要があるのだ。

紙幣印刷とは、要するに量的緩和である。そうなれば既に上がっているゴールドなどは更に上昇することになるだろう。(実際には紙幣の価値が下がっているのだが。)

多くの人が同じことを言っているが、果たしてどうなるか。筆者もドルも日本円ももはやほとんど持っていないのである。


世界秩序の変化に対処するための原則