前回の記事では中央銀行による紙幣印刷とビットコインなどの暗号通貨の関係について記事にした。
なので今回の記事では足元のビットコイン相場について少し所感を述べてみたい。
ビットコイン価格上昇の原因
ビットコインは上昇相場にある。短期的な理由としてはドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領選挙で勝利したことが挙げられる。トランプ氏はビットコインを中央銀行の準備通貨とすることを議論している。つまりは世界最大の中央銀行がビットコインを買うということである。
また、トランプ氏はSEC(証券取引委員会)のトップに親ビットコインのポール・アトキンズ氏を選んだことから、トランプ氏の勝利によってビットコインに追い風が吹いているのである。
だがこの記事で筆者が言いたいのはそうした短期的な動きよりも、ビットコインの長期的な上昇相場が何によって動かされているかということである。
前回の記事でアルゼンチンの大統領でありオーストリア学派の経済学者でもあるハビエル・ミレイ氏は、ビットコインは中央銀行の紙幣印刷によって引き起こされているインフレに対する自然な反応だと主張していた。紙幣印刷によって政府が紙幣の価値を薄めているので、人々は紙幣を捨ててビットコインに逃げているということである。
紙幣の価値は薄まっているのか
それは大まかな構図である。しかしこの記事では「紙幣の価値が薄まっている」ということをもう少し厳密に見てゆきたい。
まず、ビットコインのグラフは長期的に見れば、2022年に入る頃に下落相場になり、その後2023年頃に持ち直し、そのまま上昇相場になっていることが分かる。
これをどう説明するかである。
ドル紙幣の流通はどうなっているのだろうか? 経済に出回っている紙幣の量というのは、経済統計においては明確なグラフといて見ることができる。ここの読者ならご存知だがマネーサプライである。マネーサプライは紙幣や貨幣、預金などを合計した、世の中に出回っているお金の合計のことである。
ではアメリカのマネーサプライはどうなっているのかと言えば、実質マネーサプライのグラフは次のようになっている。
マネーサプライは実体経済の統計なのでビットコイン相場より遅れてはいるが、コロナ後の現金給付によって大幅に増加したマネーサプライ(物価高騰の原因である)は利上げによって2022年から減少したが、金利高の落ち着きにより2023年頃に持ち直し、そのまま今でも上昇基調にあるのである。
マネーサプライと連動するビットコイン相場
だからビットコイン相場が上がっているのは中央銀行が紙幣を増やし続けているからだという主張は、このように経済統計上でも確認できる。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏などはビットコイン投資の問題点に経済統計との相関が確認できないために投資がやりにくいことを挙げているが、このようにある程度の関連を見つけることは可能である。
ビットコイン相場はこれからどうなるか。短期的な状況としては、親ビットコインのトランプ氏の当選がビッグニュースだったが、相場というのは良いニュースが供給され続けなければ上がり続けることはできないので、その後横ばいになっているのも当然である。
この後トランプ氏の要因でビットコインが上がり続けるためには、トランプ氏の更なる行動が必要となるほか、何も行動がなければ落胆で短期的に売られる可能性もある。
だが上で述べた通り、筆者は大きな構図として重要なのはマネーサプライだと考えている。そしてマネーサプライ増加の原因はFed(連邦準備制度)が利下げを開始して人々が借金をしやすくなったことだが、今の金利水準でマネーサプライが増加しているということは、金利がここから大きく上がることがなければ(トランプ氏の政策にもよるが)マネーサプライは増え続け、ビットコインの長期上昇相場は基本的に続くものと予想している。
また、マネーサプライが増え続けていることは、アメリカのインフレの状況にも大きな意味を持つのではないだろうか? コロナ後のインフレを引き起こしたのはマネーサプライの増加なのである。
ビットコインがマネーサプライと連動していることは興味深い事実である。紙幣の増加によって、ビットコインが紙幣の代わりになろうとしているのだろうか。
ミレイ大統領の言う通り、通貨は政府によって独占されているから政府は自由にそれを減価させられるのであって、人々に他の通貨を選ぶ選択肢があれば政府はそう簡単に紙幣を減価させられなくなる。
それはミレイ氏と同じオーストリア学派の経済学者であるフリードリヒ・フォン・ハイエク氏が何十年も前に『貨幣発行自由化論』で予想していた理想郷である。
ビットコインは理想郷になれるのだろうか。
貨幣発行自由化論