引き続き、 世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、The National Newsによるインタビューである。
今回は紙幣の代わりとしてのゴールドとビットコインについて語っている部分を取り上げたい。
紙幣と国債からの逃避
前回の記事では、ダリオ氏は米国債の発行過多によって米国債が下落するリスクを警告しており、最終的には中央銀行がインフレを許容してでも量的緩和で国債を買い入れるしかないと主張していた。
問題は、多くの人が紙幣を保有しており、インフレになれば紙幣(と国債)は紙切れになるということである。
こういう時に一番逃げ足の速いのはファンドマネージャーである。ダリオ氏は次のように述べている。
米国債を持ちたくないという人が増えている。あまりに多くの国債があり、それは本当に富の貯蔵手段として大丈夫なのかと考える人が増えている。
だがインフレを気にする声は一般の人々にも広がりつつあるのではないか。
ドルや円で貯金しているのが危険ならば、人々はどうすれば良いのか。ダリオ氏はこう続けている。
国債が売られるリスクが増えている。それこそがゴールドやビットコインが上昇している理由だ。紙幣の代わりになるものは何かと人々が考えている。
紙幣の代わりになるもの
短期的な上下はあるものの、金価格は上がり続けている。
そして最近特に上がっているのがビットコインである。
ビットコインは恐らく今回のトランプ相場で一番上がった銘柄だろう。
トランプ氏はビットコインをアメリカの準備通貨とすることを議論しており、SEC(証券取引委員会)のトップに親ビットコインのポール・アトキンズ氏を選んだことから、トランプ政権への期待がビットコイン価格を押し上げている。
ゴールドとビットコインの比較
ダリオ氏はこの2銘柄についてどう思っているのか。ダリオ氏は次のように述べている。
暗号通貨を保有してはいる。ビットコインをいくらか持っている。
問題はポジションの規模であり、ゴールドと比べてどれだけ魅力的かということだ。
ダリオ氏はビットコインを保有しているとはいえ、ゴールドを保有しているような規模で保有しているわけではない。
ダリオ氏は暗号通貨の問題点を次のように指摘している。
暗号通貨の問題の1つはプライバシーだ。すべてが明らかになってしまう。そしてそこに課税するのは容易だ。政府は容易に課税できる。
ゴールドは誰にも依存せずに保有できる。
非常に皮肉なことだが、ビットコインの最大の問題点はトランザクションが全世界に向けて公開されていることである。個人の送金履歴を追いたい政府にとってはこれほど有難いことはない。
ダリオ氏の論点は、紙幣の供給を管理している政府が国民の利益を守るように動くとは信じられないという点である。
だから同様に、紙幣からビットコインに逃れた人々に対して、政府がトランザクションの公開情報を利用しないと信じるべきではないとダリオ氏は言っているのである。
実際にはトランザクションを非公開にする暗号通貨もある。しかしそれらはメジャーになっていない。そうした秘匿性の高い暗号通貨がメジャーになるとき、暗号通貨は先進国政府と本物の戦争をやることになるだろう。過去にはスイスの銀行業がそれと戦って、敗北したのである。
また、ダリオ氏はゴールドの利点として値動きを読みやすいことを挙げている。ダリオ氏は次のように述べている。
ゴールドがどう動くかはインフレと金利との関係で理解できる。値動きがビットコインよりも分かりやすい。ビットコインはより投機的だ。
これはプロの投資家にとっては非常に重要である。ゴールドはインフレ率が上がれば価格が上がり、金利が上がれば価格が下がる。
何故上がっているのか、何故下がっているのかがこれらの数字を用いて説明できるから、いくらで買って良い、いくらでは買っては駄目だということが言えるのである。しかしビットコインにはそれができない。
また、ダリオ氏は需要の面でもゴールドは有利だという。ダリオ氏はこう続けている。
多くの中央銀行がゴールドを買っている。暗号通貨とはそこが違う。
それはビットコインに対してだけでなく、シルバーなど他の貴金属に対してもゴールドが有利な理由である。シルバーは割安で、1970年代の物価高騰時代にはゴールドと同じように高騰した銘柄なのだが、確かに中央銀行が買っていないという弱点はある。
結論
ダリオ氏はこのように資産としてのゴールドとビットコインを比べた上で、次のように言っている。
こうした理由でわたしは暗号通貨よりゴールドを好んでいる。だがそれよりも重要なのは、政府が信用できるのかどうかという問題を理解することだ。
理想的には、ゴールドとビットコインの両方がポートフォリオに入るべきだ。片方を選んで片方を排除するような極端なことはするべきではない。
重要なのは、紙幣の価値について心配すること、そして紙幣の代わりになるもので、政府が自由に印刷できないものは何かを考えることだ。
著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明している通り、ダリオ氏がこれまでの歴史を分析した結論は、先進国の債務問題は最終的にはインフレで解決されるというものである。
だから多少の差はあるにせよ、それを回避できそうな資産はどれも考慮に値するのである。
世界秩序の変化に対処するための原則