ネイピア氏: ドルと米国株は何十年もかけて大英帝国のポンドと英国株のように下落してゆく

The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏がHidden Forcesによるインタビューで、先進国の債務の状況とアメリカの金融市場との関係について語っている。

金利上昇と債務問題

先進国はどの国もお金がない。ここの記事ではアメリカがコロナ後の金利上昇で急増している国債の利払いに追われていて債務危機になりかねない、という話を紹介しているが、それは何もアメリカだけの話ではない。程度の差はあれどこの国でも金利は上がっているからである。

国債の利払いが増加すれば他に回せるお金は減る。それで何処の国でも取れるところからお金を取ろうということになっている。日本でも増税の話がどんどん進むのはそういうことである。

各国政府は使えるお金はすべて使おうとするだろう。ネイピア氏は次のように言っている。

ヨーロッパやイギリスでは、国民の貯蓄を国内の投資に回そうという動きが見られる。

お金がなければ人のお金を勝手に投資に回してしまえば良いということだ。日本でも巨額の年金があり、その運用は政府が握っている。

そうした資金の現状はどうなっているか。ネイピア氏は次のように述べている。

だが問題は、国民の貯蓄の大半は現状ではアメリカに投資されているということだ。

外国への投資が呼び戻される

日本でもそうだが、年金のお金は外国株などに投資されている。ネイピア氏はこう続けている。

イギリスの状況は特筆に値する。イギリスの年金基金の資金で英国株に投資されているのはたった4%だ。アメリカへの投資はもっと多い。

それはある意味では先進国に余裕があったからだとも言える。他の国にお金を回す余裕があったのである。

しかし金利上昇で国債の利払いが増え、国家の財政に本当に余裕がなくなってきたとき、例えば量的緩和で金利を下げるということを政府はやりたいだろうが、それでは自国通貨が下落してしまうので、買っている外国資産を売り払って自国通貨を買い支えるという選択肢が取られるのではないか。

ネイピア氏が言っているのはそういうことである。彼は次のように述べている。

こうした資金が国内に呼び戻されればどうなる? 例えば日本は外国資産への投資が多い世界有数の国だ。日本がその資金を国内に戻そうとすれば、アメリカが危機に陥る。

対外債務が為替レートを暴落させる

ここの読者であれば知っている人もいるだろうが、アメリカは対外資産よりも対外債務の方が多い国である。つまり、アメリカは他国からお金を借りている。

ネイピア氏は次のように説明している。

アメリカでは58兆ドルの資産が外国人によって保有されている。アメリカが持つ外国資産を差し引きしても24兆ドルで、GDPの77%だ。

これまでは日本にもヨーロッパ諸国にもある程度の余裕があった。だが日本では円安が問題になりつつあり、長期的に通貨安が進めばそれを止めるためになりふりかまってはいられなくなる可能性は十分にある。

そしてそれは何処の国も同じである。その時に一番困るのは、他国から投資を受けている国である。

なぜドル資産が危ういのか

これまでは基軸通貨ドルとドル建ての資産に世界中の資金が集まっていた。だが政治的理由でドル離れが進んでいる以外に、アメリカの友好国でさえもドルを支えている場合ではなくなりつつあるというのが、ネイピア氏の指摘なのである。

そうすればドルはどうなるか? ネイピア氏は次のように述べている。

アメリカ以外の世界中が資金を引き上げなければならなくなれば、アメリカは立ち行かなくなる。だからアメリカはある時点でこのシステムをどう維持するのかを考えなければならない。

そうでなければドルを待っているのは危険な自由落下だ。

ネイピア氏が比較対象に挙げるのはイギリスである。ネイピア氏はこう続ける。

アメリカの前に基軸通貨を持っていたのはイギリスだ。第2次世界大戦が終わってもまだ多くの国がイギリスのポンドを準備通貨として保有していた。

そこから資金が引き出されるプロセスには長い時間がかかった。

イギリスの株式市場は1974年にようやく底を打った。長い下げ相場の大底だった。

準備通貨の保有者が資金を引き出し終わるまで長い交渉のプロセスがあった。それがアメリカを待っている結末だと思う。

大英帝国がそうであったように、アメリカも100年ほどの覇権国家としての寿命を徐々に終えて衰退してゆくというのは、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で予言したシナリオである。

歴史を振り返れば何百年も覇権国家であり続けた国は存在しないから、それは予言というよりは予定調和だろう。

優れたアナリストであるネイピア氏の考えはダリオ氏のシナリオに観点を補完してくれる有難いものである。これからも専門家の相場観を報じてゆく。


世界秩序の変化に対処するための原則