ドラッケンミラー氏: AIはファンドマネージャーの代わりにはならない

ジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを長年運用していたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏が、ノルウェー銀行のインタビューでAI(人工知能)と投資について語っている。

AIはファンドマネージャーに勝てるか

大変興味深いことに、世界最高のファンドマネージャーの1人であるドラッケンミラー氏がAIに投資が出来るかどうかについて話している。

AIに投資は出来るだろうか。少なくとも銀行や証券会社が売りつけてくるような「AIがあなたのお金を運用します」的なサービスが使い物にならないことは事実だ。それはほとんどランダムな運用か、インデックス投資にランダムな運用を混ぜたものに近い。

だがもっと真剣な話題として、最高のAIが(ドラッケンミラー氏のような)最高のファンドマネージャーに勝つことが出来るかを考えることは出来る。

そしてドラッケンミラー氏の答えは次のものである。

ノーだ。そうは思わない。だがAIは副操縦士になることが出来る。そしてそのタッグは無敵で、人間だけではとても敵わない。

ドラッケンミラー氏とAI

ドラッケンミラー氏はAI全般を否定しているわけではない。ここの読者には説明不要だが、ドラッケンミラー氏はAIの将来性を大きく買っている機関投資家である。2023年にはAIの演算処理を担うGPUを製造するNVIDIAの株価上昇を予想し、大きな利益を上げた。

NVIDIAを買い始めた頃、ドラッケンミラー氏はAIについて次のように言っていた。

暗号通貨とは違ってAIは本物だ。インターネットと同じくらいの革命かもしれない。これは大きな革新だ。

AIは投資家にはなれないのか

ただ、それでもドラッケンミラー氏はAIは投資において人間には勝てないと考えているようだ。

ちなみに筆者の考え方は少し違う。AIが金融市場で勝てるかどうかは、トレードの種類によると考えている。

筆者が考えているのは、優れた数学者や物理学者を雇い、規格外の処理能力のコンピュータを集めて投資を行なうヘッジファンド、Renaissance Technologyを作り上げた故ジェームズ・サイモンズ氏のことである。

サイモンズ氏は数学者でありながら世界最高水準のファンドマネージャーになった人物である。そしてサイモンズ氏の投資戦略は純粋に数学的なものだった。

大量のコンピュータと数学者を雇うことで相場のなかから統計的に証明できるトレンドを見つけ、そのトレンドに投資をするモデルでドラッケンミラー氏に勝るとも劣らないパフォーマンスを上げた機関投資家である。

筆者が思い出しているのは、サイモンズ氏が自分の投資戦略はAIと同じようなものだと言っていたことである。サイモンズ氏のトレーディングはコンピュータによるビッグデータの処理と統計分析に基づいたものだったが、それはAIの演算と同種類のものである。

だから、サイモンズ氏がやったように、数学的なモデルを使ってAIが統計的分析を行い、Renaissance Technologyがやったような短期トレードで勝つことは可能ではないかと筆者は考えている。

AIと長期投資

だがここに1つ重要な事実がある。Renaissance Technologyの統計的・数学的トレードでは長期投資では勝てなかったということである。サイモンズ氏は数学によって短期的なチャートの動きを支配したが、ドラッケンミラー氏がやるような、世界情勢に左右されるマクロな長期トレードではサイモンズ氏の数学と統計は勝てなかったのである。

だから、マクロ戦略のトレードに限定するならば、筆者もドラッケンミラー氏に同意する。AIは今のところネット上の情報しか処理できないが、世界情勢は例えばパウエル議長の考えやトランプ新大統領の思惑に左右されるため、それらを読み解く鍵はネット上には落ちていない。必要な情報が足りないのである。AIであろうとも人間であろうとも論理的に不可能なことは不可能だろう。

マクロ投資家とAI

だが、ドラッケンミラー氏はマクロ投資家とAIは協力できると言う。

ドラッケンミラー氏はAIに補助的な役割を期待しているようだ。彼は友人であるチェスの元世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフ氏を例に出して次のように言っている。

カスパロフ氏は自分自身を鍛えるためにコンピュータを使い、コンピュータと協力した最初期の人間だ。

同じことが資産運用業界でも起きると思っている。

ガスパロフ氏は、1990年代に人間代表のチェス棋士としてIBMのスーパーコンピュータと対戦した世界トップクラスのプロ棋士であると同時に、自分自身もチェスの研究にコンピュータやデータベースを利用した人物である。

ガスパロフ氏はかなり昔から、膨大な棋譜データの管理にデータベースを活用していた。

同じようなことが投資家にも出来るだろう。AIの優れた点の1つは検索エンジンの上位互換になれることだから、膨大なインターネット上の記事からその人の好むような投資アイデアを拾ってくることも出来るだろう。

あるいは膨大なチャートや決算のデータから、投資家の興味を引くような銘柄をAIが持ってきてくれるかもしれない。

あるいはAIを使って複雑なトレードのパターンを形成することも出来るかもしれない。

活用方法は他にもあるだろう。そうした無限のポテンシャルこそ、ドラッケンミラー氏が評価しているAIの真骨頂である。

これは恐らく未来の投資家の姿の話なのだろう。未来の優れた投資家は、AIをフル活用しているに違いない。ドラッケンミラー氏は次のように言っている。

直観を持った投資家がAIやその他のものを補助に使えば、その人が世界最高の投資家になるだろう。

そしてそれこそがAIに大量の資金が投資されている理由である。

AIは様々な株式銘柄の売上高を急増させており、筆者も去年のNVIDIAを始め今年も大いに儲けさせてもらっている。AI関連の株式銘柄の最新の状況については以下の記事に纏めてあるので参考にしてもらいたい。