少し遅くなったが、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fが公開されているので紹介したい。まずはジョージ・ソロス氏が保有しドーン・フィッツパトリック氏が運用するSoros Fund Managementのポートフォリオからである。
米国株の買い
Soros Fund ManagementについてはCEOであるフィッツパトリック氏のインタビューがちょうど公開されているので、同時並行で紹介していたところである。
その記事によると、フィッツパトリック氏は米国株について次のように言っていた。
S&P 500が22%上がったという事実に囚われるべきではない。株式を買い持ちにすべきだ。
また、この記事でフィッツパトリック氏は同時に、短期的に下落があった時に買い増しが出来る程度の余裕を残しておくべきだと主張していた。
では実際にはフィッツパトリック氏の(ソロス氏の)ポートフォリオはどうなっているのか。Form 13Fに報告されている米国株のポジション総額は次のように推移している。
- 2023年12月: 76億ドル
- 2024年3月: 60億ドル
- 2024年6月: 56億ドル
- 2024年9月: 69億ドル
これだけ見るとあまり変化していないように見えるが、今回2024年9月の開示にはS&P 500のETFのプットオプション(株価下落に賭ける取引)が大量に含まれていることに注意しなければならない。
オプションは株価下落に賭ける場合でも「買い」ということになるので、Form 13Fに含まれる。S&P 500のプットオプションは株式12億ドル分(かなり大きい)も含まれているので、実際にはフィッツパトリック氏は6月よりも米国株の買いを減らしていることになる。
トレード内容
ということで、ポジション総額を見るとフィッツパトリック氏の言葉よりも弱気のポートフォリオに見える。インタビューが最近で、開示が9月末のものだから、その後強気転換したのだろうか。
だがポートフォリオの内容を見ればトランプ相場の株高にも備えていることが分かる。3番目に大きいポジションに米国の小型株指数Russell 2000のETFのコール・オプション(こちらは株価上昇に賭ける)の買いがあり、規模は2.5億ドルである。
小型株はトランプ新大統領の規制緩和に恩恵を受けるため、大統領選挙の直後に大きく上がった。
一方でフィッツパトリック氏が空売り(プットの買い)しているS&P 500は9月末から小型株ほど上がっていないので、銘柄の取捨選択は成功しているのだろう。
SDGsな紙の包装銘柄
個別株からも1つ紹介しておこう。上記2つのオプションのポジションに挟まれ、ソロスファンドのポジションで2番目に大きいポジションとなっているのは、Smurfit Westrockという紙やダンボールを使った包装の会社である。
包装の会社が何故トレンディーなのかと言えば、この会社の公式サイトには「A global leader in sustainable packaging」とある。つまり、紙の包装がプラスチックの包装よりもサステイナブルでSDGs的だということを打ち出して、リベラルな消費者に訴えかけているのである。
少し前までは紙の消費は森林を破壊すると言われていたような気がするが、リベラルな消費者に理屈を説いても意味のないことである。
いずれにしても大金を費やしてリベラルな政治イデオロギーを世界中に広めようとしているソロス氏(とフィッツパトリック氏)らしい銘柄選択である。ソロス氏がSDGsを何処まで本気で信じているのかは分からないが。
ただ、SmurfitのSDGsなビジネス戦略は今のところ奏功しており、アナリスト予想平均では2025年の1株当たり純利益が3.5ドルで、年間の利益成長率が67%とNVIDIA並みの成長となっている。
株価は56.4ドルなので、2025年の利益予想に基づく株価収益率は16倍ということになる。NVIDIA並みの成長率にしては完全に割安である。
筆者の推奨しているAI銘柄のCoherentやLumentumと似たような状況ということになる。
また記事を書くが、筆者もこの銘柄を買おうと思う。筆者はどう間違ってもリベラルではないが、政治は投資とは一切関係がない。
結論
ということで、もしかしたらフィッツパトリック氏も筆者と同じように今の株式市場を見ているのかもしれない。米国株全体にそれほど魅力はないが、有望な個別銘柄の買いを妨げるような下落は当面予想されない。だからこそ彼女はこう言っているのだろう。
様々なリスクシナリオはあるから、それが起きた時にパニックになって売るのではなく買い増しができるようなポジションの規模にしておくべきだが。