フィッツパトリック氏、上司ジョージ・ソロス氏を語る

ジョージ・ソロス氏の保有するソロス・ファンド・マネジメントのCEOであるドーン・フィッツパトリック女史が、上司であるソロス氏についてGoldman Sachsによるインタビューで語っている。

ソロス氏の後継者

グローバルマクロ戦略のヘッジファンドの創始者とも言える、業界では生ける伝説となっているソロス氏だが、94歳となった彼がこれまで何十年も後継者を探していたことは有名であり、36年前にソロス氏にクォンタムファンドを任されたスタンレー・ドラッケンミラー氏は『新マーケットの魔術師』の中のインタビューで次のように言っていた。

彼の家に面接に行ったとき、私がソロスの10番目の「後継者」だということを彼の息子から知らされました。

それからもう数十年が経っているが、ソロスファンドの運用担当者はそこから更に変わり続けていた。

だが2017年に採用されたフィッツパトリック氏はもう7年も運用を続けている。しかもこれまでの「後継者」はCIOの肩書しか貰えていなかったが、フィッツパトリック氏は今ではCEOとなっている。

フィッツパトリック氏は、筆者が尊敬する世界で唯一の女性投資家でもある。何十年もの時を経てソロス氏は遂に後継者を見つけたのか。

ソロス氏のトレーディング

まずは「後継者」フィッツパトリック氏がソロス氏のトレーディングについて語っている部分から紹介しよう。彼女は次のように述べている。

トレードを始める時にはジョージはそのトレードに非常に熱心になるが、同時に投資に対して感情的になることはない。

投資家にとって感情的になることは大きな罪で、われわれの多くはそれを避けられない。だがジョージは自分が間違った時にはただ単に次のトレードに移行する。その冷静さは本当に信じられないくらいだ。

自分の好きな銘柄に入れ込むことは、投資家にはよくあることである。持っている銘柄が下がっても、待てば上がってくるはずだと思う。しかしそれが主観に過ぎなければ、投資家はお金を失ってしまう。

また逆もある。あまりに嫌っていた銘柄が上がり続けるため、買ってみたらそこが天井だったという話もある。インターネットバブルの時のドラッケンミラー氏である。

だがフィッツパトリック氏によれば、ソロス氏は感情にかられて悪い投資にのめり込むことがないという。投資をやってみれば分かるが、それは非常に難しい。それがソロス氏の天性の才能なのである。

上司としてのソロス氏

フィッツパトリック氏はまた、上司としてのソロス氏についても話している。

ソロス氏と言えば、ドラッケンミラー氏は『新マーケットの魔術師』で次のように言っていた。

ジョージは良い給料を出すが、すぐクビにする、という評判でした。ソロスが私を誘った話をするたびに、断固として行ってはいけない、と業界の先輩たちに言われていました。

だがドラッケンミラー氏も歴代の「後継者」の中ではかなり長く続いた部類に入る。

フィッツパトリック氏は上司としてのソロス氏について次のように語り始めている。

わたしが7年と少し前にソロス・ファンド・マネジメントに来た時には、ジョージは莫大な資金をオープンソサエティ財団に移したところだったので、組織に大きな変化が起こっていた。

フィッツパトリック氏の話は何故ファンド内部の変化のことから始まるのだろうか。そして彼女の話は次のように続いてゆく。

ジョージは忍耐強い。毎日電話してきて「円がいいと思うよ」などということは言わない。わたしの任期では年に1回か2回ぐらいだ。

電話で相場の話はするが、それほど強い意見があるのはそれくらいの頻度だ。絶好の投資機会はそれほど多くないからだ。

これは最初の組織の変化の話とどう関連するのだろうか。

筆者の推測によれば、それは要するにソロス氏がファンドの運用にかかわる時間がないということに暗に言及しているのではないか。

ドラッケンミラー氏は入社後、運用方針でソロス氏と大きく衝突して大喧嘩をすることになる。それがどう解決されたかと言えば、彼は最近のノルウェー銀行のインタビューで次のように言っている。

わたしは辞めたいということを仄めかした。ソロスは「恐らく厨房に料理長が2人居てはいけないのだろう。わたしは4、5年東欧に行くからファンドには触れない。だからどちらが間違っていたのかすぐにはっきりするだろう」という態度だった。明確にそう言ったわけではないが。

上司ソロス氏との衝突については、ドラッケンミラー氏は『新マーケットの魔術師』で詳細に語っているので、そちらも参考にしてもらいたい。


新マーケットの魔術師