引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏のSkagen Funds主催の講演を紹介したい。
今回はアメリカの金利の長期トレンドについて語っている部分である。
中国のバブル崩壊と米国債
前回までの記事でネイピア氏はインフレの動向と中国による米国債購入の変化が世界の金融市場の新たなトレンドを決めると主張していた。
これまでの債券市場では誰もが米国債を買っていた。アメリカの中央銀行も米国債を買い入れていた。中国も貿易で稼いだ外貨をもてあまし、大量の米国債を買っていた。
だがネイピア氏によれば、そのトレンドは逆流する。
アメリカではインフレが生じたことで金利を上げなければならなくなり、中国も不動産バブル崩壊によって他国の国債を買っている状況ではなくなった。
それだけでなく、ウクライナ戦争以後、他の国々も米国債を避けている。
買い圧力が弱まり、米国債の価格が下落して金利が上昇すること自体が米国債の利払いを増やし、新たな国債発行によって米国債は更に下落してゆく。ジョージ・ソロス氏の『ソロスの錬金術』で解説されている投資理論で言うところの「自己強化的なトレンド」である。
米国債下落は長期トレンド
ソロス氏によれば、自己強化的なトレンドはそれを止める別の要因がなければそのままどんどん加速してゆく。そしてネイピア氏もそう思っているようである。
ネイピア氏は次のように言っている。
投資をする上での結論はこうだ。長期の国債を買わないこと。
実際、米国債がこれから下落すると予想して空売りしている機関投資家は多い。
だがネイピア氏によれば、米国債の下落はここから来年にかけてだけの話ではない。ネイピア氏は次のように続けている。
米国債のこれまでのリターンについてのチャートを見れば、30年の上げ相場と30年の下げ相場があることに気づく。
債券相場の歴史を見れば、上げ相場も下げ相場も非常に長期にわたる傾向にある。
アメリカの長期金利は長期的には以下のように推移している。
金利は何十年もかけて上がって下がっている。金利上昇は債券の価格下落を意味するので、債券の価格は下がって上がったのである。
そしてコロナ後に金利は再び上がっている。これが30年続く新たな相場の始まりだとすれば、ネイピア氏の結論は次のようになる。
今の下げ相場は3年前に始まった。残っているのはあとたったの27年だ。
ちなみにネイピア氏は債券の価格下落が必ずしも名目のものではない可能性、つまりインフレによって名目価格ではなく実質的価値が下落する可能性にも言及している。
ポール・チューダー・ジョーンズ氏などは日本の債務もアメリカの債務もそうなるしかないと予想している。
ネイピア氏はその可能性を踏まえて次のように結論している。
債券保有者の損失は必ずしも名目のものではない。金利を抑圧すれば名目の損失は避けられる。
金利の固定は債券価格を固定することだからだ。その場合損失は実質のものになる。だがとにかく債券は保有するな。
ソロスの錬金術