ヘイコック氏: インフレは最終的にスタグフレーションになり、中央銀行は金利を制御できなくなる

引き続き、Von Greyerzのパートナーであるジョニー・ヘイコック氏のSFO Continuityによるインタビューである。

今回は低金利政策が何処まで続けられるのかについて話している部分を紹介したい。

アメリカの財政問題と基軸通貨ドル

これまでの記事では、ヘイコック氏はアメリカの財政問題を懸念していた。

アメリカではコロナ後の金利上昇により莫大な政府債務に多額の利払いが発生しており、米国政府は国債の利払いを新たな国債発行で賄うという自転車操業に陥っている。

アメリカがそれでも持ちこたえているのは、ドルが基軸通貨だからである。米国債を大量発行しても諸外国が買ってくれたし、債務負担を抑えるために金利を下げてドルが下落してもドルを買ってくれる国が世界中にあり、他の国ほどは通貨が下落しないのである。

アメリカ以外におけるインフレ政策

だが他の国は違う。ヘイコック氏は次のように説明している。

超短命だったことで有名な2022年のイギリスのトラス政権を例に取ろう。

リズ・トラス氏はインフレが酷かった2022年にインフレ対策という名のばら撒き政策を発表し、イギリスの通貨ポンドと英国債の両方を即座に下落させ、イギリス史上最短で辞任に追い込まれたイギリスの元首相である。

ヘイコック氏は次のように述べている。

当時の保守党政権は財源のない減税を発表した。それでイギリスの国債市場はどうなったか。債券市場は「そんな予算は通らない、無理だ」と言った。そして途方もない速さで下落していった。

そしてほとんど一夜にして年金ファンドがバランスシートの悪化により財政危機に陥った。

これが、自国通貨が基軸通貨ではない場合、自国の通貨や国債を諸外国が買ってくれない場合の市場の反応である。

イギリスの中央銀行は緊急措置として国債買い入れを行おうとしたが、それはつまりインフレ時における量的緩和ということになるので、今度はポンドの価値が危うくなってしまう。それで中央銀行は自分が緊急措置を取っている間にトラス政権に政策転換をするように迫ったのである。

そしてトラス氏は政策を撤回し、辞任することになった。

ヘイコック氏は次のように言う。

それが中央銀行が金利を操作できなくなる瞬間だ。

インフレ政策の結末

特に、国債価格の下落によって国債を大量に保有する年金ファンドが危機に陥った点を強調したい。

アメリカでもインフレ期に同じようなプチ危機が起きている。シリコンバレー銀行などの大型地方銀行が保有する国債の価格下落によって倒産したことである。

このように、国債には保有者がいるので、国債の危機とは政府の財務危機であるだけでなく、預金者や年金にとっても危機なのである。

コロナ後にこうした事態が少しずつ明るみに出ていることに注目するべきである。トラス氏は辞任し、アメリカでも銀行危機は全国規模の銀行には派生していないので、まだ致命的な事態にはなっていない。

だが筆者の意見では、致命的な事態になっていないことが将来の致命的な事態を呼ぶことになるだろう。人々はコロナ後の現金給付をどうとも思っていない。それがインフレの原因となったことを理解している人でさえ社会全体で見れば少数派である。

だから、次の経済危機が起こった時には何のためらいもなくより大きな緩和政策に頼るはずだ。今でさえアメリカの財政赤字が増え続けていることがその証明である。

結論

次の経済危機ではどういうことが起きるか。例えばアメリカの銀行危機は大手銀行にまで波及し、2022年に債務危機と通貨危機の瀬戸際で踏みとどまったイギリスは実際に危機に陥るだろう。

具体的な危機を予想するわけではない。しかし事態は確実にエスカレートして、それに似たような何かしらの危機が起きるだろうという意味である。

アメリカではインフレが減速したので利下げを開始している。だが利下げをすればインフレになると警告する論者もいる。

ヘイコック氏はアメリカの利下げについて不吉な言葉を残している。

金利を下げればインフレがどうなるか、それが持続可能なのか見てみよう。個人的な予想はスタグフレーションだが、まあ利下げをやってみることだ。