Von Greyerzのパートナーであるジョニー・ヘイコック氏がSFO Continuityによるインタビューで、アメリカのインフレ率低下にもかかわらず上昇し続けている金相場と各国の中央銀行との関係について語っている。
止まらない金価格上昇
コロナ後の現金給付による物価高騰で金価格が高騰したのは当たり前の話だが、アメリカのインフレ率はその後2%台まで下がってきているのに、驚くべきことに金価格は上昇を続けている。
金価格のチャートは次のように推移している。
通常、金相場に影響を与えるのはインフレ率と金利だが、この現象はそのどちらでも完全には説明できない。インフレ率は下がってきているし、金利は一時の高い水準からは下がったが、コロナ前の水準に戻ったわけでは全然ないからである。
金相場と中央銀行
ではゴールドは何故上昇しているのか? 理由としてよく挙げられるのは中央銀行の外貨準備である。
ヘイコック氏は司会者にこのことについて聞かれ、次のように答えている。
すべての中央銀行が現在ゴールドを外貨準備として増やしているわけではない。増やしているのは東側諸国の中央銀行だ。
これはわたしが強調したい重要なポイントだ。今日の話の一貫しているテーマは、西側から東側への権力の移行なのだ。
中国、ロシア、インド、ブラジル、トルコ、これらは一部で、西側の国もある。だがゴールドを買っている中央銀行の多数派は東側の中央銀行だ。それは西側から東側への権力の移行なのだ。
国家の盛衰とゴールドの保有
ヘイコック氏はゴールドの保有は権力そのものだと言う。
その話はレイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明している、覇権国家の台頭から衰退までのモデルの話に似ている。
国家にも年齢があり、そして寿命がある。ダリオ氏によれば、若く強い国家は高い経済成長を誇り、債務もない。
そして金相場に関して言えば、第2次世界大戦後のアメリカが世界に存在するゴールドの多くを保有していたことを思い出したい。それが若く強い国家、これから成長してゆく国家の姿である。
だが国家も人と同じように年を取る。先進国となったかつての新興国は、経済成長が落ち、債務が増え、そして蓄えていたはずのゴールドを使い果たしてゆく。
そして低金利政策や紙幣印刷に依存し、インフレや通貨安を引き起こしてゆく。
それが国家の一生である。アメリカや日本が永遠に先進国であり続けると思っている人がいるならば言っておくが、それは有り得ない。それは歴史を見れば明らかである。
貨幣価値の下落とゴールドの保有
さて、ゴールドを持てなくなった先進国の中央銀行は、ゴールドの代わりにいくらでも刷ることの出来る各国の紙幣を持つようになった。
ヘイコック氏は次のように言っている。
1980年には、世界の中央銀行のバランスシートの74%はゴールドだった。74%だ。
しかし今では20%だ。これは大幅な下落だ。
だが現在、「東側の中央銀行は」ゴールドの保有を再び増やしている。それは多くの国でインフレが起こったからだが、日本やアメリカのようにもともと紙幣印刷をしていた国はゴールドを買うことなど出来ない。
今、ゴールドを買うことで円やドルなどの本質的価値がない紙幣から逃避しようとしている国は、それが出来る国だけである。だからヘイコック氏はゴールドの保有は国力だと言っているのである。
ゴールドから紙幣への移行によって、世界の中央銀行のゴールドの保有は74%から20%に下落した。
だがここに来て紙幣の信頼がゆらいでいる。そしてゴールドへの逃避が起きている。中央銀行も、もしこの比率を20%から74%に戻すとすればどうなるか?
結論
それは2つの意味を持つだろう。まず1つ目は、ゴールドを買うことのできる国力のある国、紙幣印刷に頼っておらず、負債もない国だけが紙幣の価値下落から逃げ出すことができる。その他の国は通貨安やインフレに見舞われるだろう。
そしてもう1つの意味は、それは金相場にとって莫大な買い圧力になるだろうということである。それは世界の中央銀行のポートフォリオの半分以上がゴールドにとって買い圧力になることを意味する。
それは現在の金価格上昇を十分に説明する。
そして恐らくは他の貴金属をも押し上げるだろう。長期見通しとしては、紙幣の価値下落は恐らく回避不能である。
世界秩序の変化に対処するための原則