イギリスのジョンソン外相が米国籍を放棄、租税回避で

元ロンドン市長であり、イギリスのEU離脱を主導したイギリスのボリス・ジョンソン外相がアメリカ国籍を放棄したことがイギリスで話題になっている。Wall Street Journal(原文英語)などが伝えている。

ジョンソン氏のアメリカ国籍

イギリスの外相のアメリカ国籍というと混乱する読者もあるだろうから、最初から説明しよう。ジョンソン外相と言えば、反EU的な主張で有名である。

ジョンソン氏はイギリス王ジョージ二世を祖先に持つ生粋のイギリス人だが、両親がニューヨークに居住している間に生まれたことでアメリカ国籍を付与された二重国籍保有者だった。アメリカではアメリカ国内で生まれたすべての者にアメリカ国籍が付与されることになっており、ジョンソン氏は偶発的にアメリカ国籍を付与されたアメリカ人、ということに形式的にはなるわけである。

二重国籍と言うと便利だと思う読者もあるかもしれないが、アメリカ国籍の場合はそうではない。むしろ、海外では同じようなケースにおいてアメリカ国籍を付与されることを避けようとする場合が多い。

それは何故か? アメリカ国籍を持っていれば、アメリカに住んだことがなくとも米国政府によって所得に課税されてしまうからである。IRS(アメリカの国税庁)のウェブサイト(原文英語)には以下のように書いてある。

米国の市民権を持っている場合、米国内に居る場合も海外に居る場合も、確定申告を行い定められた税金を収めるためのルールは基本的に変わりません。どの国で得た所得であっても、居住地にかかわらず、すべての所得が米国の所得税の対象となります。

つまり、例えば読者が両親の旅行中に偶然アメリカで生まれたと仮定して、その後一切アメリカに足を踏み入れたことがなかったとしても、生涯アメリカに対して税金を収めなければならないようになる。

ジョンソン氏は5歳になって以来アメリカに住んだことはないとしており、しかし最近自宅を売却しようとした際に米国が彼の市民権を根拠に50,000ドルにも及ぶ課税を試みたとして、これは「あまりに酷い」課税だと猛反発していた。結果としてジョンソン氏は米国籍放棄という解決を選んだようである。

米国籍放棄が世界的な流行に

ただ、米国は米国籍を放棄したい者に対してもただでは放棄させてはくれない。例外もあるが、米国籍を放棄するアメリカ人は基本的に2,350ドル(およそ25万円)の国籍離脱申請料を支払う必要がある(在日米国大使館)。

勝手に国籍を与えておいて、アメリカに関係がなくとも課税し、止めてほしければ金を払えというわけである。ジョンソン外相が反発したのも当然だろう。

こうしたアメリカ政府の姿勢に対して、海外在住のアメリカ人のなかで米国籍を放棄しようとする向きが増えているらしい。Wall Street Journalは「アメリカ人が子供に米国籍を望まないとき」という記事(原文英語)のなかで、以下のようなイギリス在住のアメリカ人の声を紹介している。

本当はこうあってほしくはないのだが、事実として、アメリカに居住し働いているのではない限り、アメリカ国籍は負担であって恩恵ではない。

特に海外在住のアメリカ人の子息など、アメリカにほとんど行ったこともないアメリカ国籍保有者にはアメリカ国籍は大いに負担となる。

何故か? その理由は課税だけではない。アメリカ人は海外に銀行口座や証券口座を開くだけで苦労する。それは米国政府がアメリカ人の海外口座に対して多くの規制を押し付けているからであり、そうした煩雑な規制に対応することを嫌って最初からアメリカ人お断りにしている証券会社は世界でも少なくない。

そうした規制とは例えばSSN(社会保障番号)などのことであり、これは日本のマイナンバー(奇妙な名前である)のもととなったものである。マイナンバーが銀行口座に紐付けられるとき、日本人が海外口座で門前払いにされる日も遠くないということになるだろう。

日本人は気付いてもいないが、日本人は既にかなりの程度日本政府に管理されており、従順な日本人はそれに文句を言うこともない。しかし考えてもらいたいのだが、今日本人が払っている多額の税金は本当に政府のやっている仕事に見合ったものだろうか? その大半が何処に消えているのか、日本人も知らないわけではないだろう。しかし日本人は黙って自民党に服従している。だから政治家や大企業が膨大な日本の予算を使って好き勝手出来るわけである。

パナマ文書がニュースになったときには、日本では感情的な意見が散見されたが、日本政府が日本人の資産を好きに管理するということに日本人はもっと自覚的になるべきだろう。

税制についていつも話題に登るのは、富裕層と庶民の対立という構図だが、これはまったく真実ではない。富裕層から税金を取ったところで、その金が庶民に向かうことはない。財務省と経団連に向かうだけである。それは日本の経済政策がどのように決められているのかを考えれば明らかなのだが、日本国民はそれに気付くことがない。

本来、対立の構図は国民と政府の利権というものであるべきなのだが、それに気付かずに国民同士が互いに非難しあっている構図は、政府や大企業にとって非常に都合の良いものだろう。

日本人は、税収の元締めである財務省や、更にその上にあるOECDの偽善的グローバリズムにおける役割をもっと知るべきなのである。