引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のBloombergによるインタビューである。今回は米国債とアメリカの財務問題について語っている部分を紹介したい。
アメリカの財政赤字
ダリオ氏はまず米国債の状況について次のように語っている。
米国債の需要と供給は普通ではない状況にある。これから供給は大きく増え、しかもそれを消化することが難しい世界的な理由が2つある。
米国債の発行額は増加している。コロナ後に急増したのは言うまでもないが、ロックダウンが終わってもアメリカの財政赤字はコロナ前の水準を上回ったままである。
このまま増加すれば、まだ景気後退も来ていないのに2008年のリーマンショックの時の財政赤字の額に並んでしまいそうである。それがバイデン大統領のやっていることなのである。
米国債の需要と供給
巨額の財政赤字は巨額の国債発行を意味する。そして巨額の国債を発行するからには、それを買ってくれる誰かが必要となる。
それがダリオ氏の言う米国債の需給問題である。ダリオ氏は次のように述べている。
米国債の発行額は巨額であり、既に機関投資家や中央銀行のポートフォリオのかなりの部分を占めているため、彼らは米国債を持ち過ぎだと感じている。
それに政治的・地政学的な不確実性が加わる。
イギリスでは2022年にトラス元首相が借金による向こう見ずなばら撒き政策を発表した途端にポンドと英国債が暴落した。
日本でもインフレにもかかわらず紙幣印刷政策を続けた結果、日本円は暴落した。
だがアメリカは世界をインフレにするようなばら撒きを行なっても今のところ無事である。その理由はドルと米国債には2つの大きな買い手があったからである。
1つは量的緩和を行なっていた自国の中央銀行だが、現金給付でインフレが起こったことで中央銀行による国債買い入れは中止している。
もう1つはドルが基軸通貨であるために諸外国の中央銀行が外貨準備としてドルを買っていることだが、そちらについてもダリオ氏は次のように言っている。
諸外国は米国債を保有することを恐れている。持てば米国政府に制裁されかねないからだ。
ロシアのウクライナ侵攻の時にアメリカが対露制裁に従わない無関係の国にドルを使った制裁をちらつかせて以来、中国やインドなどのBRICS諸国や中東諸国はドルの保有を減らそうとしている。
それこそが基軸通貨ドルをベースにしたアメリカの覇権国家体制の要だったのだが、アメリカはそれを自分で捨てたのである。
アメリカの債務危機
ダリオ氏は米国債の金利水準については妥当だと考えている。今の水準が妥当だと考えているから、例えば利下げも大幅には出来ないと想定しているのである。
だがそれに加えてこの記事で述べたような需給問題が米国債に襲いかかる。
11月の大統領選挙でどちらの候補が勝つにしてもばら撒きが行われるだろう。
それは当然米国債の発行によって行われる。コロナ後に金利が上がったためにアメリカの政府債務には巨額の利払いが生じており、米国政府は既に国債の利払いを国債発行によって支払う自転車操業に追い込まれているのだが、そこに更にばら撒きによる新たな国債発行が加わることになる。
ダリオ氏は次のように述べている。
債務という時限爆弾が迫っている。
結論
他の何人かの識者もダリオ氏に同意しているようである。
このシナリオは、まさにダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で述べている、覇権国家が債務増加によって基軸通貨の地位を失い衰退してゆくシナリオそのものである。
基軸通貨としてのドルに関しては、元クレディ・スイスの天才ゾルタン・ポジャール氏の記事も参考にしてもらいたい。
世界秩序の変化に対処するための原則