世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、Bloombergのインタビューでアメリカ経済とFed(連邦準備制度)の金融政策について語っている。
アメリカの利下げ開始
コロナ後の莫大な現金給付によって高騰していたアメリカのインフレも2%台まで下がり、Fedはいよいよ利下げを開始した。
今後の景気見通しには様々な意見がある。インフレ率下落を予想し続け、それが的中している債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、インフレ率がこのまま1%台まで下がってゆくことを予想している。
だからガンドラック氏は利下げも大幅なものを予想している。
しかしダリオ氏はそうは考えていないようだ。ダリオ氏は次のように言っている。
大幅な利下げが来るとは思わない。全般的に言って、今アメリカ経済は比較的バランスが取れている。経済成長やインフレの水準、そして大統領選挙のあることを考えれば、市場の利下げ期待はやり過ぎだ。
インフレの根強さの意味
金融業界では、ガンドラック氏が米国経済に対して弱気派であり、ダリオ氏や経済学者のラリー・サマーズ氏が比較的強気派であると言える。
その予想が今のところどうなっているかと言えば、長期トレンドとしてはガンドラック氏の予想が的中しており、しかし最新の雇用統計ではインフレの根強さが確認されている。
アメリカ経済はそのトレンドをもう2年も続けてきた。短期的にはインフレの根強さが何度も確認されるが、長期のトレンドとしてはアメリカ経済は減速している。
筆者はこの状況をこう解釈している。アメリカ経済は減速しているが、少しの後押しでもあればインフレに転換しかねない潜在的な火薬を中に含んでいる。
11月の大統領選挙
結局、インフレ政策の後の経済とはそういうものである。経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が著書『貨幣論集』で言っているように、インフレが減速するなら景気は悪化せざるを得ない。
その一方で、景気の減速を更なるインフレ政策で止めようとすれば、今度はインフレの再加速が避けられないのである。
つまり、景気後退かインフレ再燃かどちらかしかない。もう何度も言っているが、どれだけ時間がかかろうとも、最終的な落とし所は他にないのである。
そしてアメリカ経済は今どちらに近いのか。ダリオ氏は次のように述べている。
経済は下ぶれリスクよりも上ぶれリスクの方が高いだろう。
結論
ダリオ氏はサマーズ氏と同じようにインフレ再燃を懸念しているようである。
筆者の意見はどうか。これまでの長期的なトレンドが変わっていないことを考えるとガンドラック氏が正しいのだが、ここではダリオ氏が大統領選挙を理由に上ぶれリスクを気にしていることを考えたい。
つまり、ダリオ氏は新大統領の政策がインフレ的になることを危惧しているのであり、その点ではダリオ氏が正しいと言えるだろう。ドラッケンミラー氏も同じ理由で米国債を空売りしている。
ガンドラック氏も実際のトレードとしてはドラッケンミラー氏と近い結論に達しているのだが。
何故米国債の空売りが今議論に上がるのか。それにはインフレの他にもう1つ理由がある。
ダリオ氏は次のように述べている。
債務という時限爆弾が迫っている。
アメリカの債務問題については何度も書いたので、以下の記事を参考にしてもらいたい。
貨幣論集