ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げた著名投資家ジム・ロジャーズ氏が、トランプ相場で不透明になりゆく世界の金融市場についてコメントしている。Business Standard(原文英語)が報じている。
世界中を実際に旅しながら相場観を養ったロジャーズ氏らしく、アメリカのみならずインド、ロシアなどに言及するグローバルマクロ的内容になっている。
インドのモディ政権
ここでもあまり取り上げていないインド市場だが、ロジャーズ氏は以前より注目しており、モディ首相の就任前はインドに期待するとしていたが、公約があまり実行されていないと見るとインド市場から手を引いた。
現在、インドでは5つの州で同時に州議会選挙が行われており、モディ首相が選挙前に女性の雇用や公共の福祉に関する財政出動を約束したことで、インドの株式市場は年末から今年にかけて上昇している。
しかしロジャーズ氏はこの動きをあまり好意的には見ていない。彼は以下のように分析している。
大衆迎合的な財政政策だ。ナレンドラ・モディ氏は選挙が近いことを知っていた。彼は多くの人から政権への意見を聞いており、人々にもっと好意的に見てもらいたいと思ったのだろう。脱税や不正取引の撲滅を目的として行われた高額紙幣の廃止は、仮に必要な政策であったとしても酷いやり方で実行されてしまった。あまりに多くの人々に被害を与えてしまったために、モディ氏はそうした人々にアピールしようとしている。彼は単に票を得るために出来ることをすべてやっているだけだ。
政治家は選挙のために財政出動を行う。財政出動が増えれば政治家が取り扱う資金の量が増加し、その分だけ日本の豊洲市場のような利権が増殖する。そして経済全体に何が残るかと言えば、レイ・ダリオ氏の言う「債務の長期サイクル」がまた一歩限界に近づくということである。これは日本の病であり、インドの病でもあるようである。
ロジャーズ氏はそうした状況について以下のように述べている。
減税はいつでも望ましいと思うが、インドの場合、残念ながら財政難を悪化させてしまう。インドのGDP比政府債務は既に非常に高い。そうでなければこれまでインド経済はもっと上手くやれただろう。誰もがインフラ投資を望んでおり、インドにはそれが必要だ。わたしも含め、誰もが減税を望んでいる。しかし残念ながら、経済全体の構図はあまり好ましいものではない。
また、インドに投資をしたいかと聞かれてロジャーズ氏は以下のように答えている。
今インド市場で起こっていることをあまり好んでいない。部分的には、株式市場が財政政策への期待で既に上昇してしまっているからだ。急上昇しているものを買うのは好きではない。下落しているものを買うのが好きだ。
何十年も逆張り投資を続けてきたロジャーズ氏らしい主張である。彼の逆張り投資については以下の記事に纏めてある。
また、彼は自分の現在のポジションについてこう語る。
現在、インドには一切投資をしていない。ほとんどすべての市場がここ数ヶ月で上昇した。ここ二ヶ月、どの市場でも投資をしていない。
ここ二ヶ月というのは、アメリカ大統領選挙後のトランプ相場のことを指しているのだろう。アメリカの株式市場は選挙後に大きく上昇し、いまだ史上最高値付近を推移している。
不明瞭なトランプ相場
ではそのアメリカについてのロジャーズ氏の見通しはどうか? トランプ大統領の政策についてはロジャーズ氏は以下のようにコメントしている。
ドナルド・トランプが次に何をするか不明瞭だ。彼自身それを知っているのかどうかさえ不明瞭だ。彼は多くのことを公約にした。そこには貿易戦争も含まれている。だから彼は実際に多くの国と貿易戦争をするのだろうと思う。それは歴史的に誰にとっても利益のない行為であり、誰も勝者になれない道だ。もし彼がそれを実行すれば、インドやアメリカを含めて、誰もが被害を被るだろう。
わたしも含め、保護貿易について投資家や経済学者が言うことは同じである。しかしトランプ大統領の保護貿易の本質についてはダリオ氏の説明の方がより正確だと言うべきだろう。
ロシアしか買うものがない
では、ロジャーズ氏のポートフォリオは現在どうなっているのか? 彼は以下のように述べている。
ほとんど何にも投資していない。まだ様子見をしている。ただ、ロシアへの投資は増やしている。ロシア国債の金利はかなり高く、ロシアルーブルは恐らく底を打った。だからロシア国債を買い増した。しかし大局的には様子見だ。貿易戦争が起きるのかどうかを伺っている。もしそうなれば、誰にとっても良い時間にはならないだろう!
彼の言う通り、この状況で有望なのはロシア市場くらいだろう。少し前の記事で書いた通りである。
ロジャーズ氏は数年前からロシア市場を勧めており、既にかなり利益を得ていることだろう。因みにロシア株よりもロシア国債を勧めているところまで、わたしが上記の記事で説明したことと同じである。
ロシア株は個別株を見れば魅力的なものがあるのだが、指数は短期的にはやや加熱気味である。上記の記事以来、ロシア国債は横ばい、ルーブルはやや上昇している。個別株はロシアからの資金流出懸念の後退から不動産、建設関連の安いものはやはり上がってきたが、株価指数は足踏みとなっている。
しかしいずれにせよ数年単位の長期投資であり、それはトランプ政権の親ロシア政策が続く限り続けるだろう。一方で、その前提が無くなればすぐにでも逃げ出すつもりである。現在のところ、このトレンドは継続している。
結論
しかしながら、世界的にはやはりあまり魅力的な資産クラスは存在しない。ロジャーズ氏も様子見と言っており、ダリオ氏もダボスで同じようなことを言っていた。
ではわたしはどうか? 今年に入り、ロシア市場以外で何をしているかと言えば、市場の短期的な行き過ぎをオプションで刈り取るような微妙なトレードを積み重ねている。レンジを読み間違えない限りそれはそれで儲かるのだが、2016年の金相場のような一つの方向に大きく賭けるトレードが出来るまでには、もう少し時間が必要だろう。