FOMC会合でソフトランディングを楽観するパウエル議長「超低金利はもう戻って来ない」

米国時間9月18日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)はFOMC会合で0.5%の利下げを発表した。2021年からの物価高騰以来初めての利下げであり、その後の金融政策が注目されている。

インフレ後初の利下げ

さて、インフレ後初めてのアメリカの利下げということになった。パウエル議長は記者会見で次のように述べている。

これまでのわれわれの忍耐強いアプローチが実を結んだ。

インフレは今やわれわれの目標に極めて近く、インフレ率が持続的に2%目標に向かっているという更なる自信を得た。

今回の会合では利下げ自体は市場の予想通りだったが、利下げ幅については意見が割れていた。

金融市場は元々は0.25%利下げがメインシナリオだと織り込んでいたが、会合直前になって当局者が0.5%利下げを示唆したことから市場でも意見が割れ、会合直前には市場の織り込む確率では0.25%と0.5%がほぼ五分五分となっていた。

結局利下げ幅は0.5%となった。ボウマン理事だけが0.25%に票を投じた。パウエル議長は0.5%利下げについて次のように述べている。

われわれは利下げを待った。その辛抱強さがインフレ率が持続的に2%以下になるという自信に繋がった。それこそが今日大きく動くことができる理由だ。

FOMC声明文

さて、いつも通りFOMC会合後に発表された声明文から見てゆきたい。声明文は前回発表のものを修正してゆく形で更新されるが、今回の声明文は修正箇所が多くなっている。

まず前回の声明文で雇用の増加は「落ち着いた」とされていた箇所は「減速した」に変更され、インフレが「過去1年で和らいだ」と書かれていた箇所は「われわれの2%目標に対して更なる進展を見せた」と変更された。ともにインフレと雇用の減速を示唆する文である。

他に重要な変更点は「インフレを2%目標に戻す」ことに強く注力している、としていた箇所が「雇用最大化を支援しインフレを2%目標に戻す」とされており、これは失業率が上昇し続けていることに配慮した表現である。

これまではインフレ抑制が一番重要だったが、これからは失業率の上昇を和らげることも重視するという意味である。

パウエル議長も記者会見で次のように言っている。

雇用の増加は過去数ヶ月で明らかに減速しており、これは注目に値する。

今後の利下げ

さて、投資家にとって重要なのはこれからの利下げ速度だろう。まずパウエル議長は次のように言っている。

0.5%がこれからの利下げペースだと考えるべきではない。

各会合での決定は各会合で決めてゆく。

今回、政策金利は5.25%から4.75%に利下げされたが、0.5%利下げがこれからの標準になるわけではない。

では利下げ速度はどうなるのか。今回の会合ではFOMC会合参加者の政策金利の予想をプロットしたドットプロットが公開されており、それによれば政策金利は年末までに4.25%、来年末までに3.25%になると示唆されている。

今年、FOMC会合はあと2回あるので、年内は0.25%の利下げを2回やるということだろう。来年について言えば、金利先物市場の織り込みでは政策金利は来年末に2.75%になると予想されているので、市場予想の方がハト派である。

低金利の時代は戻ってくるのか

金利は最終的には何処まで落ちてゆくのか。パウエル議長は次のように言っている。

直感的には、ほとんどの、あるいは少なくとも多くの人が、何兆ドルもの国債や長期債がマイナス金利で取引されていたような時代に戻ることは恐らく無いと考えているのでははないか。

わたしの感覚ではその時代はもう戻って来ない。

コロナ後に政策金利はゼロから5.25%まで上げられた。金利はゼロに戻ってゆくのだろうか。パウエル議長はそうではないと主張している。

これは経済学者のラリー・サマーズ氏の主張と一致している。サマーズ氏は財政支出がコロナ前の水準に戻っていないため、その分インフレ圧力が強くなり、アメリカの金利は前の水準には下がらないと予想している。

そしてそれは株式市場に対して大きな意味を持っている。

景気後退は来ないのか

元々マクロ経済学が専門ではないパウエル氏は、2021年にインフレの脅威を無根拠に無視してしまって以来、筆者がここで取り上げているような経済の専門家の言葉に耳を傾けているらしく、サマーズ氏やジェフリー・ガンドラック氏などの言葉を時間差でオウム返しするようになっている。

だがパウエル氏が本職のマクロ経済の専門家と意見を違えている点がまだ1つ残っている。アメリカ経済の先行きである。

インフレ率は2%台にまで下がった一方で、実質経済成長率は3%を超えている。パウエル氏は高金利でインフレを抑制したが、実体経済にダメージを与えることはなかったと自負し、次のように述べている。

われわれは物価の安定を、しばしばディスインフレーションに繋がる失業率の耐え難い上昇なしに達成しようとしている。

だが20世紀最大のマクロ経済学者、フリードリヒ・フォン・ハイエク氏は、著書『貨幣論集』で次のように述べている。

失業はインフレが加速をやめたときに、過去の誤った政策の帰結として、非常に残念だが不可避の結果として出現せざるをえない。

ハイエク氏は失業が悪化するのはインフレ減速の後だと主張している。まだGDPが悪化していないのは、順序がまだだからである。アナリストのデイヴィッド・ローゼンバーグ氏も、リーマンショック直前の2007年に人々が同じようなソフトランディング期待を抱いていたことを指摘している。

実際、ハイエク氏の予想通り失業率は確かに上がっている。だがパウエル議長はそれを軽く見ている。2007年のバーナンキ議長のように。

経済の専門家と中央銀行の闘いはまだ終わっていない。むしろこれからである。


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