2017年はロシア市場こそがレーガノミクス上げ相場の再来となる

2017年、トランプ相場でアメリカの利上げの行方が話題になっており、利上げは資産価格に悪影響を及ぼすため、投資家は警戒しながら米国株の行方を見守っている。利上げは一般的に資産を買う状況として最適ではないが、しかし世界にはその逆を行おうとしている国がある。ロシアである。

トランプ相場はしばしばレーガノミクスと比べられているが、しかし2017年はロシア株の方がレーガノミクスの上げ相場に似ていると言えるだろう。

スタグフレーション後の経済回復

1981年にレーガン大統領が就任した頃のアメリカは、インフレと景気後退が同時に起こるスタグフレーションに悩まされていた。レーガン政権最初の1年はインフレ退治のために政策金利が17%まで上がるほどの状況で、レーガノミクスの減税と投資も高金利の悪影響に対抗出来ず、株価は下落していったが、インフレが収まり金利が下がり始めた瞬間、米国株は長期の上げ相場へと突入してゆく。以下の記事でチャートを添えながら説明した通りである。

そして2017年のロシア経済はまさにそういう状況なのである。ロシア経済はここ数年、原油安と経済制裁の二重苦に苦しんでいた。産油国であるロシアは原油暴落で輸出が減少、しかもクリミア併合後にはアメリカとその同盟国が経済制裁を課したことで、ロシア連邦中央銀行がルーブルを支えきれないとの観測が広まり、ルーブルは暴落した。以下はUSDRUBのチャートで、上方向がドル高ルーブル安である。

2017-1-18-usdrub-long-term-chart

ルーブル暴落はロシア経済にとって大打撃となった。輸出物価が高騰したことでロシア内のインフレ率は17%近くまで急上昇し、経済は疲弊した。レーガン政権開始時のアメリカと同じ状況である。

原油反発から始まるロシア経済の回復

しかしながら、原因となった原油暴落は底値から反発した。以下はアメリカのWTI原油価格のチャートである。

2017-1-18-wti-crude-oil-price-middle-term-chart

原油暴落の原因となった米国シェール産業による供給は死んでいないものの、サウジアラビアを始めとするOPECがある程度結託しているため、2016年始めのような暴落は起こりにくくなったと言えるだろう。

そしてもう一つの原因である経済制裁は、トランプ政権が解除を仄めかしている。

特に原油の反発はロシア経済にプラスの影響を及ぼしており、ルーブルの反発は国内のインフレ率を5%台にまで下落させている。インフレ率が落ち着けば、インフレ退治のために金利を上げていた中央銀行は金利を戻すことが出来る。利下げが始まっているのである。

ロシア連邦中央銀行の動き

ロシア連邦中央銀行の動向を知るためには、政策決定における声明文を引用するのが早いだろう。以下は12月に金利を据え置いた時の声明である。

ロシア連邦銀行は政策金利を10%に維持することを決定した。物価上昇の動向や経済活動は概ね予想通りであり、インフレへの懸念はいくらか和らいだ。消費者物価の上昇は短期的要因の影響もあり緩やかになっているが、インフレ期待の減少はいまだ不安定である。

今回の決定と、やや引き締め的な金融政策が維持されていることを考慮すれば、インフレ率は2017年の後半には目標の4%まで下がるものと思われる。消費者物価上昇率の下落トレンドが定着するにつれて、ロシア連邦中央銀行は2017年の前半に政策金利を切り下げることを考えるだろう。

ちなみに10%がどういう水準かと言えば、先ずはインフレ率と比べてみるのが早いだろう。インフレ率が5-6%程度にまで下落している今、インフレ率を差し引いた実質金利は4-5%ということになる。

しかしロシアの実質経済成長は現在0%であり、実質金利は現状のロシア経済に対してかなり引き締め的であると言えるだろう。

ただ、金利を高く保たなければならなかった理由は物価高騰であり、原油安とルーブル安さえ収まってしまえば、中央銀行は利下げを開始出来る。原油安が再発しなければという想定のもとで考えると、金利は最終的に名目成長率(実質成長率プラスインフレ率)よりやや高い6%程度まで下落すると想定しても行き過ぎではないだろう。

ロシア株の水準は?

そうなればロシア株はどうなるだろうか? 先ず、ロシアの株価指数MICEXは現在2170前後で推移しているが、MICEXの一株あたり利益は220程度であり、これは投資額に対する利回りが10%程度であることを意味する。

その国の株式は一般に他の資産との比較で買われるものである。例えばアメリカでは政策金利が0.5%-0.75%、10年物国債の金利が2.4%、S&P 500の利回りが5%となっている。

ロシアでは短期的なインフレ退治のために政策金利が10%となっているが、10年物国債は利下げを見越して8%となっており、対してMICEXが10%である。

ただ、10年物国債の8%という水準も、インフレ率が5%、経済成長率がほぼゼロという水準に対して高いと言える。物価高騰が収まるという前提に経てば、10年物国債の金利は6%程度まで下落する余地があり、そうなれば株価の水準も切り上がってくると言えるだろう。

ルーブル建て資産の買い

そこで先ず買いとなるのはロシアの10年物国債である。金利低下は債券にとって価格上昇であるので、金利が6%程度にまで落ちてくるまではロシア国債は買いで良いだろう。価格上昇だけでなく、金利も十分に期待できる。

一方でロシア株も魅力的なのだが、長期国債利回りが8%の段階で株式の利回り10%はやや買われすぎの感もある。ロシア株はアメリカ大統領選挙後に上昇しているので、MICEXが1800-1900程度まで下落して価格に対する利回りが上昇するのを待つか、あるいはまだ買われていない個別株を選別して買っていくのが良いだろう。ロシア株には配当が10%を超える優良株がまだごろごろしており、配当を受け取りながら長期で待てる投資家は、短期的な下落を気にする必要もないだろう。

また、ロシアの資産を購入する場合には為替ヘッジを付けずにルーブル建てで購入するのが良いだろう。ルーブルは既に十分に下落しており、利下げによる下落圧力を差し引いても、ロシア経済回復のシナリオが正しければ、上昇に向かうと予想している。

リスク要因

リスクとしては原油が再び下落する可能性と、トランプ政権がアメリカ政府内の反ロシア勢力に押され、親ロシア的政策が取れなくなる可能性が上げられる。

先ず、アメリカのシェール産業がまだ生きている以上、供給が増加して原油価格が再び下落するのは有り得ることである。しかしOPECがある程度は結託している今、また大きく暴落するということは考えづらい。

したがって、投資家は可能ならば原油価格のコールオプションの売り(ある水準より上昇しなければ利益が出る取引)や、あるいはシェール企業の発行するようなジャンク債の空売りなど、市場の状況を見ながら原油下落で利益が出る取引と組み合わせてゆくのが良いだろう。

トランプ政権のロシア政策については現状では楽観しているが、反ロシア政策を主導するCIAの抵抗次第では暗礁に乗り上げる可能性もなくはない。このテーマについては今後も報じてゆく。暗礁に乗り上げそうならば撤退である。

プーチン大統領の国内政策

しかし、もしトランプ政権によってアメリカが親ロシア的政策を取り始めるならば、それは外交というだけでなく、プーチン大統領の国内政策を考えてもロシア株にとってはプラスになるだろう。

プーチン大統領の高い支持率は、クリミア併合後に反ロシア政策を取った西側諸国に対し、断固たる対応を行なったことで得られたものである。しかし西側諸国の反ロシア政策が無くなれば、ロシア国民は決して良好とは言えない国内経済の方に目を向け、プーチン大統領は経済対策を行わざるを得なくなるだろう。

取り留めもなく書いたが、現状のロシア市場に対する見方は以上である。原油市場に関するヘッジはやはり必要であり、またロシア国債を持つ方が良い場合もあれば、ロシア株を持つ方が良い場合もあり、それは市場の短期的な状況変化によって変わってくる。為替ヘッジも完全に外すべきか、そうすべきでないかは状況次第だろう。

日々変わるポートフォリオをすべて詳細に書いてゆくことは出来ないが、大まかな方向性についてはここでも報告してゆく。ジム・ロジャーズ氏の長期見通しはやはり当たるものだと感嘆しているところである。