久々の下げ相場である。下げ相場と言ってもこれまで上がってきた程度に下落しているわけでもないのだが、下落時においてはその原因を理解しておくことが重要だろう。
世界的な株価下落
まずは米国株のチャートを掲載しておこう。
1日の下落幅に大騒ぎしている人が多いが、米国株は多少下がっている。4月の下落以来の下げ幅だろうか。日本では円高も伴っているので日経平均の下げ幅はこれより大きい。
ともかく世界の株式の中心は米国株なので、まずは米国株の下落理由を探る必要がある。
債券市場の見解
下落相場でも上昇相場でもそうだが、金融市場が何を考えているかは金利を見れば分かる。
金利は実質金利とインフレ率の和である。まず市場の期待実質金利は次のように推移している。
実質金利はここ数ヶ月下がっている。実質金利の下落には2つの意味がある。実質金利が下落し株価が上がっているなら、利下げが株価上昇の原因になっているということである。
そしてこちらが今のケースだが、実質金利が下落し株価が下がっているなら、景気が減速しているので企業利益の減速を見込んで株価が下がっているのである。
景気後退寸前のアメリカ経済
はっきり言えば、こうした下落の可能性についてはこれまでの記事に十分に書いてきた。
まず、これまで何度も言及しているのは失業率の上昇であり、特に失業率が前年比で0.5%上昇していることである。
そして今月の雇用統計の記事では次のように書いておいた。
100年近くにわたって検証してみれば、失業率の上昇が前年との差で0.5%以上に達した場合、景気後退を逃れられたケースは戦後1度もない。
だから失業率は既に景気後退を逃れられない水準にあるのである。
そしてこの記事でも書いたが、それがどういう意味であるかはここの読者であれば即座に分かってほしいものである。
何度も書いたことだが、景気後退になりながら株価の下落を免れたケースも戦後1度もない。それに関しては3月には既に検証済みである。
そして、これも何度も書いたが、景気後退のおよそ半年前が株価の天井となる。失業率が景気後退が不可避の水準まで上がってきていることを考えれば、その時期はそろそろだということである。
景気後退とトランプ相場
さて、しかし今年の11月には大統領選挙がある。もしこのまま景気後退に突入し、そしてトランプ氏が勝つことになれば、十中八九経済対策をするだろう。
だから現在の金融市場では景気後退とトランプ氏の経済対策という2つの力が戦っている。
だが株価にとってはいくつか問題がある。まず1つは大統領選挙までまだ数ヶ月あるので、トランプ氏の政策がまだはっきりしていないこと、そしてトランプ氏が勝つとも決まっていないことである。
だから株価を下落させる景気後退の力が本物である一方で、金融市場はトランプ氏の経済対策をフルに織り込むことができない。
それが現在の株価下落に繋がっているのである。
結論
仮にトランプ氏が勝つのであれば、大統領選挙に近づくにつれ、トランプ氏の経済対策の織り込みは強くなってゆくだろう。だが11月までにはまだ何ヶ月もある。来月や再来月の経済データでアメリカ経済の減速が更に明らかになれば、トランプ氏による救済前に株価が大きく下がるシナリオになる可能性がある。
投資家はどうすれば良いか。答えは非常に簡単である。これもここの読者であればすぐに思いついてもらいたいものだが、景気後退とトランプ氏の政策の両方に恩恵を受けるトレードをすれば良いのである。
それはいくつかある。一番きれいなトレードは原油の空売りである。景気後退なら原油の需要は下がる。一方で以下の記事で説明した通り、トランプ氏にとって原油価格を下落させることは政策の中核を担っている。
だから原油の空売りは上記の2つの力の両方に恩恵を受けるトレードである。
また、原油ほどきれいではないが超長期債の金利上昇もそれほど悪くないトレードだろう。景気後退なら金利は下がるのだが、国債の需給に関する懸念からそれほどは下がらず、トランプ氏になってもならなくても新大統領のばら撒きで金利は上昇すると思われる。
いずれにせよ言いたいのは、これまで書いてきた失業率に関する警告や景気後退前後の株価の動きの検証などは意味があってやっていることなので、重く受け取ってほしいということである。いつものことだが、下落後にここの記事を重く受け取っても無駄である。もう落ちてしまってからではどうにもならないからである。