引き続き、クォンタム・ファンドを創業したことで有名なファンドマネージャーのジョージ・ソロス氏の自伝的著書『ジョージ・ソロス』から、ソロス氏の考えを紹介したい。
今回はソロス氏が投資という仕事についてどう思っているかを述べている部分である。
投資の仕事
かつてジョージ・ソロス氏の元で働いていたスタンレー・ドラッケンミラー氏は、投資で儲けるためには相場について考えることが好きでなければならないと言っていた。
ドラッケンミラー氏は次のように言っている。
仕事を始めたまさにその日から投資の仕事が大好きだ。
わたしは週に60時間働きたい。昔はもっと多かったが。それで仕事が楽しくなかったら酷い人生だ。仕事が1週間のどれだけを占めているかを考えてみるといい。
だが『ジョージ・ソロス』によれば、その師であるソロス氏は違う考えを持っているらしい。
ソロス氏は次のように述べている。
わたしは仕事が嫌いなんだ。わたしは結論に達するために必要な、本当に最小限の仕事しかしない。
仕事を好きな多くの人がいる。彼らは決断を下すのに必要な量を大いに超えるような膨大な量の情報を集めている。そして自分がよく知っている種類の投資に固執してしまう。
わたしは違う。わたしは本質にだけ集中する。
働かなければならない時には猛烈に働く。そうしなければならないことをよく知っているからだ。だが働かなくて良い時にはわたしは働かない。
必要だから働く
ソロス氏は必要だから働くのだと言う。そしてソロス氏によれば、働かなければならない時とそうでない時には波があるという。
ソロス氏は次のように続けている。
投資の世界では、上手く行っている時ほどやらなければならない仕事の量は少なくなる。
正しい判断を下し、正しい考えを持っている時にはそれほど働く必要がない。だが自分が間違っている時、相場が自分の仮説とは異なる方向に向かっている時には何が問題なのか本気で調べなければならなくなる。
上手く行っていない時ほど状況を正すために仕事の量が増える。ポートフォリオが上手く行っている時はそれほど働かなくて良い。
ソロス氏の言葉を聞いていると、どうもソロス氏は状況に駆り立てられて仕事をしているように見える。ポジションが損失を出している時、リサーチしなければお金を失い続ける時、リサーチするのである。
ソロス氏の人生観
それはほとんど生存本能のように見える。ソロス氏はどのような時に仕事をしなければならないと感じるかについて次のように語っている。
痛みを感じるんだ。わたしは動物的な勘に大いに頼っている。自分でファンドを運用していた頃にはよく腰痛に悩まされた。
わたしは激しい痛みが始まると、ポートフォリオに何か間違いがあることのしるしだと考えていた。痛みはポートフォリオの何処がおかしいのかは教えてくれなかったが。腰なら空売りポジションが駄目だとか、左肩なら通貨だとか。
半ば信じられないようなエピソードだが、ソロス氏の逸話として有名なものである。
ソロス氏は何か不安に追われながら仕事をしているように見える。それはもしかしたらユダヤ人としてナチス・ドイツのホロコーストから逃れてきた子供時代からのソロス氏の生き方と繋がっているのではないか。
それは純粋に投資を楽しんでいるソロス氏の弟子、ドラッケンミラー氏とは違った感覚である。
ソロス氏は次のように述べている。
ファンドマネージャー個人のパフォーマンスにもバブルの生成と崩壊のプロセスがある。上手く行く時は非常に上手く行くのだが、そうすると調子に乗ってしまい、そのツケを払う時が来る。わたしも例外ではない。
状況は目まぐるしく変わってゆく。状況の先を行くか、状況に追いつかれるかだ。だから不安という感覚を失ってはいけない。
ジョージ・ソロス