大統領選挙後のトランプ氏、インフレを起こさずに株価上昇を引き起こす余地があるか?

11月のアメリカ大統領選挙を控え、投資家は選挙後の相場について考えなければならない。今のところトランプ氏が優勢だから、問題はトランプ氏が大統領になった場合、2016年のような株高・インフレ相場になるのかどうかということである。

アメリカ経済と大統領選挙

緩やかに減速しているアメリカの実体経済を織り込んで、金融市場は成長減速・インフレ低下シナリオへと向かっている。

だが筆者は11月までの経済動向をほぼ無視している。新大統領が就任し経済対策が発表されるとすべてひっくり返るからである。

現状、新大統領になりそうなのはトランプ氏である。

トランプ相場の再来なるか

2016年、トランプ氏が大統領選挙で勝利した時には、相場は急速に経済成長とインフレ上昇を織り込んでいった。

2016年の相場の詳細についてはこの記事で解説しているので繰り返さない。だが2024年、株高・金利上昇となったこの相場の繰り返しをトランプ氏は引き起こすことができるのか。

大統領在任時にトランプ氏は何をしたか。減税とインフラ投資である。一番有名なのは法人税を35%から21%に下げたことであり、以下の記事で触れたようにトランプ氏は今回も減税を公約にしている。

だが統計データを見ると様子は少し違う。実はトランプ政権時代、アメリカ政府の税収は減っていない。税収のグラフは次のようになっている。

2017年から2020年までのトランプ政権の期間、その前後(前はオバマ政権である)の税収の増加がやや停止しているように見える。

実際に法人減税は行われ、それは税引き後の企業利益を押し上げた。それがトランプ相場の株高の原因である。企業利益のチャートは以下のようになっている。

コロナ後の現金給付による企業利益増加は法外だが、2017年から2020年までのトランプ政権でも企業利益が上がっていることが分かるだろう。

法人は明らかに減税された。だが税収が変わっていないのであれば、その負担は家計に行ったということになる。

トランプ相場の経済成長の要因

だから減税は、全体で見れば経済成長やインフレ上昇にそれほど貢献していないのである。

貢献したのは公共事業の方だろう。政府の支出および投資(実質)のチャートは次のようになっている。

トランプ政権における公共事業の増加が分かるだろう。

結果インフレはどうなったか。当時のインフレ率は以下のように推移している。

コロナ後の高インフレは論外だが、オバマ政権で1%前後で推移していたインフレ率がトランプ政権では2%強になっていることが分かる。

トランプ氏が大統領選挙に勝った2016年には債券市場は既にインフレを先読みして金利上昇となっていたが、その動きは正しかったわけである。

トランプ氏が大統領に再選した場合

さて、当時の経済動向で今回も繰り返せるのはどれか。

法人税にはもはや下げる余地があまりない。トランプ氏は21%から20%への減税を主張しているが、前回の大幅減税に比べて効果はかなり限られるだろう。

トランプ政権で他に減税となったのは、通常何年もかけて徐々に経費に計上される減価償却費を1年で一括で計上できるようにした「Tax Cuts and Jobs法」であり、ビジネスオーナーとしてはこれほど有難い法案はない。

自分がビジネスマンであるトランプ氏はその辺りをよく分かっているわけだが、この優遇措置は徐々に期限切れとなりつつある。

これは有効な減税策なのだが、今回これを更新したとしても現状維持に過ぎない。また企業が経費を計上するためにお金を使おうとするので、インフレ的政策である。

法人減税は比較的インフレを引き起こしにくい緩和措置である。公共事業が全額インフレに貢献する一方で、減税は減税された分のお金を企業が使わなければインフレにはならない。

だが法人減税に余地がない以上、トランプ氏に残された主要な選択肢はまず公共事業ということになってしまう。

あるいは個人に対する減税を主軸に据えるのだろうか。個人の有権者の票は得られるかもしれないが、株高とGDP成長にはあまり貢献しないだろう。公共事業なら両方にプラスである。トランプ氏はそこを演出したいのではないか。

結論

ということで、大統領在任時にも減税より公共事業に頼ったトランプ氏は、今回さらに公共事業に頼らざるを得ない状況にある。

だが失業率の位置を考えれば、そうしなければアメリカ経済は景気後退に入ってゆく可能性がある。

一方で、公共事業がインフレを再燃させれば、米国債が売り浴びせに遭うリスクが増大さいている。

日銀の植田氏のように、行くも地獄、帰るも地獄の状況がトランプ氏を待ち構えている。

トランプ氏は針の穴を通すようなコントロールでインフレを引き起こさずにアメリカ経済を救うことができるだろうか。楽しみにしたい。