トランプ氏: 現金給付でインフレを引き起こしたのはバイデン氏だ

引き続き、今年11月の大統領選挙で再選を目指すドナルド・トランプ氏のAll-In Podcastにおけるインタビューである。

今回は経済政策とインフレについて語っている部分を紹介したい。

アメリカ大統領選挙

アメリカ大統領選挙に向けて投資家が一番気にしていることは、新大統領の経済政策がインフレを再加速させるのではないかということである。

トランプ氏に限らず、大統領選挙の候補者は選挙に当選するためにばら撒きを公約にする傾向がある。

だが今回の選挙は世界経済がインフレになってから初めての大統領選挙である。

インフレで金利が上がり、アメリカの莫大な政府債務には多額の利払いが生じ始めている。

この状況でいつものばら撒きをした時にインフレや国債市場はどうなるのか。

債務問題への対処法

だから今回のインタビューでトランプ氏は政府債務にどう対処するのかを聞かれている。そしてその問いに対するトランプ氏の答えはこうだった。

一番重要なのは経済成長だ。経済成長が解決策になる。

恐らく投資家はトランプ氏のこの答えをよく覚えておいた方が良い。それは金利や株式市場が11月以降どう動くのかを恐らく物語っているからだ。

だが先ずは詳細を聞こう。トランプ氏がまず言及しているのはバイデン政権が脱炭素政策のためにアメリカ国内の産油企業に制限を課していることである。

それは原油価格を上昇させる原因となっている。

トランプ氏は原油について次のように語っている。

もしバイデン氏が再選すれば、原油は産出されない。だがその原油がインフレを引き起こした。

バイデン氏が再選すれば原油価格は天井を超えるだろう。バイデン政権は原油産出を大きく制限するからだ。

経済学者ラリー・サマーズ氏は、トランプ氏が大統領選挙になれば再生可能エネルギーへの補助金減少からエネルギー価格が上昇すると主張した。

だがこの件についてはトランプ氏の方に理があるだろう。エネルギー価格を上昇させているのはバイデン大統領である。バイデン政権は自分で原油の産出を制限しておきながら、原油価格高騰は中東諸国が産油しないからだと言いがかりを付けていたが。

財政出動

だが原油市場はインフレの一因に過ぎない。一番重要なのは財政支出、つまりばら撒きである。

現在のインフレはコロナ後に行われた現金給付が引き起こした。

だから世界中の投資家が新大統領の経済政策を気にしている。インフレが再燃するのかしないのかは、新大統領の財政赤字に対する態度にかかっているからである。

トランプ氏はコロナ禍における現金給付について次のように語っている。

コロナ禍においてわたしの政権はたくさんのお金をばら撒かなければならなかった。1929年のような恐慌を回避するためだった。

その結果恐慌は避けられた。株式市場もコロナ前より上がっていた。多くの人が奇蹟だと思うはずだ。

もしお金をばら撒かなかったら恐慌になっていただろう。だが問題はバイデン氏が政権を握ったとき、何兆ドルものばら撒きを行なった。

そしてそれがインフレに繋がった。

コロナ後の現金給付はトランプ氏が3回、バイデン氏が1回行なっている。そしてその後にインフレ率は急激に上がっていった。

トランプ氏は、自分の現金給付は必要だったがバイデン氏が不必要な現金給付を行い、それがインフレを引き起こしたと言っているのである。

誰がインフレを引き起こしたのか

事実を検証してみよう。ここの読者にはお馴染みだが、可処分個人所得にインフレ率を並べたチャートを見れば、当時の状況が分かる。

所得が急激に上昇している部分が現金給付である。1回目と2回目は重なって判別しにくいが、トランプ氏が2020年に3回行い、最後の一番大きな所得上昇はバイデン氏が就任直後に行なった現金給付である。

2回目までの現金給付については、トランプ氏の言っていることは完全に筋が通っている。最初2回の現金給付はコロナで急落していたインフレ率を元に戻し、1%台という適度な水準に見事に戻している。

グラフを見ればインフレは2021年に入ってから2%を超えて上昇していることが分かる。4回目のバイデン氏による巨額の現金給付がその原因であることは間違いないが、その直前に行われているトランプ氏による3回目の現金給付がインフレに貢献していないかどうかはちょっと怪しいところである。インフレ率が既に戻っていたことを考えれば、3回目も4回目も不要だったのではないか。

結論

ということで、トランプ氏が過去のインフレについて語っていることは7割ほどは理があるといったところだろうか。

だが問題は、今回再選した後にトランプ氏がどうするかである。

筆者がインタビューを聞いて受けた印象としては、政府債務の問題に「経済成長」で対処するとした最初の答えを投資家はまず重く受け取るべきだろう。

一方で、トランプ氏はそのばら撒きの規模が高すぎるインフレをもたらさないように対処することを説明するために時間を費やしていたように見えた。

このインフレの状況でトランプ氏がそのような器用なことが出来るかどうかは分からない。だが2016年のトランプ相場が金利上昇だったように、今年もトランプ氏が当選すれば金利が上昇するという以下の記事における筆者の予想はやはり正しそうに思える。

また、金利上昇で政府債務の利払い費用がかなりの金額になるなか、これ以上金利を上げれば国債市場がどうなるかということをトランプ氏は考慮に入れているだろうか。

30年物国債が一番影響を受けそうなのだが、国債市場はまだ11月の大統領選挙を織り込んでいるとは思えない状況である。