フォン・グライアーツ氏: すべての紙幣の価値は最終的にゼロに向かってゆく

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタムファンドを設立したジム・ロジャーズ氏のインタビューを見ていたのだが、その司会者であるフォン・グライアーツ氏がフランスの哲学者ヴォルテールを引用して面白いことを言っていたのでそちらを紹介したい。

どの通貨が安全か

ロジャーズ氏とフォン・グライアーツ氏はどの通貨を持つのが良いかという話をしている。

フォン・グライアーツ氏はスイスフランを推すが、ロジャーズ氏はドルが相対的に良いと考えているらしい。

だがゴールドやシルバーを保有するのと通貨を保有するのとではどちらが良いのか? そこでフォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

すべての紙幣は最終的にはその本質的な価値に帰ってゆく。つまりゼロだ。

ヴォルテールは1729年にそう書いた。

ロジャーズ氏は笑いながら「ほんとに? 知らなかったよ」と返している。

通貨の価値

フォン・グライアーツ氏の発言は、普段日常的に通貨を財布に入れている人々にとっては直感に反する主張だろう。

そこでフォン・グライアーツ氏は実際の例を挙げる。彼は次のように述べている。

それは歴史上繰り返し起こってきた。ローマ帝国ではデナリウス硬貨が銀100%からほぼ0%になった。

厳密にはもともと純銀だったデナリウス硬貨の銀の含有量は最低で2.5%まで落ちている。

確かにあらゆる金貨や銀貨は歴史的に徐々に含有量が削減されてきた。含有量が多少減っても人々は同じ通貨だと思い込むので、削れば削るだけ政府側が得をするのである。

紙幣の価値

それは硬貨だけでなく紙幣でも同じことである。紙幣とはもともと銀行にゴールドを預けた時の預かり証のことだった。

だが1971年、アメリカ政府は国民から預かっていたはずのゴールドは返さないと宣言した。これがニクソンショックである。

このニクソンショックによって紙幣は正真正銘ただの紙切れとなった。ゴールドの預かり証ではなくなった紙幣には、基本的には紙切れ以上の本質的価値は何もない。それは紙切れである。

そうして金本位制は世界的に終わりを告げた。それでも人々は何も気にせず紙幣を使っているが、使っている人々は実際には大損している。フォン・グライアーツ氏は次のように言う。

知っての通り、1971年以来すべての通貨はゴールドに比べて97%から99%下落している。

つまりわれわれの通貨の価値はまだ1%から3%程度残っている。だがそれをもう一度100%と考えればまだ100%下落余地があるということになり、これからもそうなってゆくだろう。

目減りしたドルの価値

ドル紙幣によって買えるゴールドの量の歴史的変化を計算してみれば分かるが、フォン・グライアーツ氏の言っていることはデータによって裏付けられる事実である。

ゴールドに比べなくても、物価指数と比べたとしてもドルの価値は大幅に下落している。ニクソンショックのあった1971年のドルの価値を100として、物価変動によって目減りした今のドルの価値を計算すると、グラフは次のようになる。

1971年を100とすればドルの価値は今13にまで減っている。87%の下落である。

結論

フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

政府が支出を増やしすぎ、多すぎる負債を抱えて通貨が暴落する。

歴史上それは間違いなく起きる。これまでに生き残った通貨は存在しない。

だから円の価値が下落しているからと言って、円をドルに替えて喜んでいる場合ではない。ドルもまた長期暴落トレンドの真っ最中だからである。

フォン・グライアーツ氏は次のように言う。

それは残念な事実だ。だが政府は貨幣に起こっていることについて人々に伝えたりは絶対にしない。

何故ならば、紙幣とは実際には国債だからである。銀行に預けられた貯金で銀行は国債を買っているので、預金者は実際には国債を買っていることになる。

だから紙幣の価値が減ることは政府にとって喜ばしいことである。それは借金が実質的に減ることと同じだからである。

インフレ政策とは国民の預金を犠牲にして政府の借金を減らす政策である。それに気付いた20世紀の大経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏は『貨幣論集』で政府によらない通貨の発行を主張していた。

だが人々は実際にインフレになるまでインフレ政策がどういうものかに気付かなかった。残念なことである。


貨幣論集