日本のメディアでどれだけ報じられているのかは分からないが、12月4日、イタリアはレンツィ首相の提案した改憲案に関する国民投票を行い、イタリア国民は改憲案を否決した。レンツィ首相はこの改憲案が否決されれば辞任すると主張しており、否決が明らかになるとその通り辞意を表明した。
これだけ聞くと内容や背景が分かりづらいが、しかし今回の国民投票はイタリアのユーロ圏離脱に繋がるものであり、ヨーロッパの政情を占う上で重要な出来事であるので、この記事で説明してゆきたい。
レンツィ首相の改憲案
先ずはそもそもこの改憲案がどういうものであったのかから説明したい。単刀直入に言えば、レンツィ首相の改憲案は議会の権限を縮小し、首相の権限を著しく強化するものであった。
争点となったのは二院制であり、イタリアの議会には上院と下院が存在するが、レンツィ首相はその両方を通さなければ法案が成立しない状況が政治の停滞を招いているとし、上院の定員を3分の1に減らし、権限を縮小、事実上の一院制を目指す改憲案を提案した。改革の対象となったのは議会だけではなく、改憲案には地方政府の権限縮小なども含まれていた。
つまりこれは中央集権体制であり、その頂点にあるものはイタリア首相ではなくEUである。だから野党などの反対派は、改憲案が首相の独裁に繋がるのみならず、イタリアの政治をEUの言いなりにするものとして猛反発していた。ちなみに今回の国民投票では事前の世論調査でも否決が予想されており、結果は予想通りということになる。
イタリアはユーロ圏離脱へ
さて、今回の国民投票が何故重要かと言えば、今回の結果が最終的にはイタリアのユーロ圏離脱へと繋がる可能性があるからである。
今回、国民投票の否決を先導したのは反EU政党の五つ星運動であり、創設者のベッペ・グリッロ氏はブログ(原文イタリア語)で国民投票の結果は「民主主義の勝利だ」と宣言した。五つ星運動は次回の総選挙で政権を取る可能性があるとされており、議会の任期終了は2018年5月だが、今回の国民投票を受けて元々検討されていた早期解散の議論が加速するだろう。グリッロ氏は「今週にも総選挙を行うべき」と主張している。
したがって本当の問題は総選挙がどうなるかということになるが、今回の結果は五つ星運動を後押しするものであり、総選挙で彼らが政権を取る可能性が高まったと言えるだろう。
ユーロ圏離脱を問う国民投票
そうなればイギリスのEU離脱どころではないEU崩壊の始まりとなる。何故ならば、五つ星運動はイタリアのユーロ圏離脱を問う国民投票を行うことを目指しているからである。イギリスとは異なり、EUそのものではなくユーロ圏からの離脱となるが、しかしそれが現実となればEUへの影響はイギリスのEU離脱と比べられないほど大きいものとなる。
その理由はイタリアがユーロ圏の中心部に居ることにある。イギリスはヨーロッパの主要国ではあるが、EUでありながらもユーロを採用せず、国境を撤廃するシェンゲン協定にも同意していない外様であったのに対して、イタリアはユーロ圏経済の核の一つであり、イタリアのユーロ圏離脱はまさにEUの内部崩壊となる。
イタリアがユーロ圏離脱すべき理由
しかしイタリアにはユーロを廃止して自国通貨のイタリアリラを採用すべき理由がある。何故ならば、共通通貨ユーロは経済の弱いイタリアなどの南欧諸国から、経済の強いドイツなどの輸出大国に資金を移転させる実質的な植民地政策だからである。これは経済学者や金融関係者のなかでは常識であり、否定するのは世界でドイツ人だけである。詳細は以下の記事を参照してもらいたい。
イギリスのボリス・ジョンソン外相もイギリスの国民投票の時に同じ主張をしていた。しかしEUの官僚たちは聞く耳を持たない。正論は国民には届いても、政治家には届かないのである。
イタリア人はかつて優れた自動車製造業を誇っていたが、これはユーロによって完全に破壊されてしまった。ドイツ人が望んだ通りにである。
ユーロはドイツの生産力がユーロ圏の他の地域に対して不可侵の優位性を得るための道具となってしまった。これはわれわれイギリス人にとって、節度と常識の声としてヨーロッパの救世主となり、目の前で繰り広げられる無秩序を止めるためのチャンスなのだ。
そしてイギリスのEU離脱から始まった潮流はアメリカの大統領選挙とイタリアの国民投票に継承され、世界中で実際に無秩序を止めつつある。外交の世界で沈みゆく泥舟から最初に脱出するのは常にイギリス人であり、一番遅いのは常にドイツ人と日本人である。
だから第2次世界対戦の結果は当たり前であり、日本とドイツが組んだ時点で敗北は決まっていたのである。
結論
ちなみに為替市場では今回の国民投票を受けてユーロが下落しているが、この反応は逆であるべきものである。ユーロ圏が崩壊すればユーロは高騰する。何故ならば、経済の弱い国がユーロ圏から次々に離脱すれば、ユーロの行き着く先はドイツマルクであり、ドイツマルクはユーロよりも断然強いからである。
これはまだ先の投資アイデアではあるが、非常に大きな利益を生む投資機会であり、その未来に向けてユーロ圏は着実に進んでいる。すべてはイギリスから始まるのである。