引き続き、ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを長年運用していたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のCNBCによるインタビューである。
今回は中央銀行の運営方法について語っている部分を紹介する。
間違った経済予想
これまでの記事では、ドラッケンミラー氏はFed（連邦準備制度）がインフレはこのまま下落してゆくと想定して利下げ予告をしてしまったせいで金利が下がり、インフレが再燃しかけていることを批判していた。
実際には利上げが必要になる状況なのではないかという指摘もある。
だが、この問題の本質は何だろうか。パウエル議長が経済予想を間違ったことだろうか。
ドラッケンミラー氏は次のように述べている。
まず、すべての人はかなりの頻度で経済予想を間違う。わたしも含めてだ。
わたしの場合、間違ったと思えば急速に方向転換する。だがFedはフォーワードガイダンスを示すと間違ったフォーワードガイダンスに拘泥してそれに囚われてしまう。
フォーワードガイダンスとは経済の先行きや将来の金融政策について事前に表明することである。それが間違うから問題が起きる。
だがドラッケンミラー氏によれば、一番の問題は間違うことではなく、間違いから軌道修正する速度の方である。
実際、投資において間違った場合にどう動くのかがパフォーマンスを大きく作用する。仮に間違ったとしても、すぐに方向転換してポジションをクローズし、正しい方向に賭け直せば傷は浅い。
だが間違ったポジションにこだわり続ければ損失はどんどん広がってしまう。
だから優れた投資家は間違った時には方向転換をためらわない。これを「君子豹変す」という。君子は豹変することをためらわないという意味である。
間違いにこだわり続けるパウエル議長
優れた投資家にそれが可能なのは、見栄えよりもパフォーマンスの方が大事だからだ。君子豹変しなければ損失が膨らむのだから、本当に利益が大切なら君子豹変するだろう。
それが実際には優れたやり方なのだから、見栄えも本来はそちらの方が良いはずである。だが多くの人にはそれが分からない。普通の人は自分の間違いに気付いていないふりを続ける。
ドラッケンミラー氏によれば、パウエル議長はその罠にはまり続けている。ここ半年ほどの利下げ予告によってインフレが再燃しかけている状況に対しドラッケンミラー氏は次のように言っている。
今回もFedが利下げ予想にこだわり続けたために金融市場はその間も燃え上がり続けた。
1ヶ月ほど前にようやく方向転換しようとしたが、パウエル議長の最新の記者会見でさえ、利上げはしない、利下げするつもりだがデータ次第だという非対称なメッセージにしがみつき続けているようだった。
中央銀行はどうするべきか？
繰り返すが、ドラッケンミラー氏の指摘するFedの間違いは、経済予想を間違ったことではない。
彼は次のように言っている。
6ヶ月のインフレ率のグラフを見れば動きは明らかだ。高インフレから下がってきて、そして今はどちらかと言えば上がってきている。
だが1年後にインフレがどうなっているかわたしには分からない。ジェローム・パウエル氏にも分からない。誰かが知っているとも思わない。
では中央銀行はどうすれば良いのか？ ドラッケンミラー氏は次のように主張する。
わたしなら何も言わない。そしてFedの議長が昔やっていたように、利上げが必要な時には利上げをして、利下げが必要な時には利下げをする。それだけだ。
フォーワードガイダンスは悪
要するに、ドラッケンミラー氏は中央銀行が経済の先行きや将来の金融政策について予め語っておくフォーワードガイダンスを撤廃せよと言っているのである。
ドラッケンミラー氏は、2つ前のFedの議長であるベン・バーナンキ氏について次のように述べている。
バーナンキ氏は結果的にあまり好ましくなかったとわたしが考えていることをたくさんやったが、最悪なのがフォーワードガイダンスだ。
フォーワードガイダンスはいわゆる口先介入を形式化したものである。実際に政策金利を上下する以外に言葉によっても市場の金利を上下できるならば素晴らしいことではないか？ と中央銀行家は考えたわけだ。
だが実際には中央銀行家の経済予想は間違うので、口先介入は金利を間違った方向に向かわせることに貢献してしまう。
将来の経済データも分からない内から事前に金利を誘導するフォーワードガイダンスではなく、経済データがはっきりしてから行なう政策金利の操作の方がまだましだというわけだ。
ドラッケンミラー氏は次のように言っている。
Fedはただ仕事をすればいい。利上げが必要な時には利上げして、利下げが必要なら利下げするだけだ。
何故60分の記者会見が必要なんだ？ ロックスターじゃないんだから。あなたはFedの議長だ。