アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、BloombergのインタビューでFed(連邦準備制度)の金融政策について語っている。
米国経済とパウエル議長
アメリカではCPI(消費者物価指数)がこれまでインフレ再加速の気配を示しており、しかしGDPと雇用統計は景気後退に近付きつつある様子を示している。
アメリカ経済は強いのか弱いのか。来週のCPIの発表が注目されている。
その中でFedのパウエル議長は、インフレ率は引き続き目標の2%に向かって下がると主張し続けている。
サマーズ氏とパウエル氏
その一方で、サマーズ氏はこれまで一貫してインフレ再加速の可能性を警告してきた。
そのサマーズ氏は、今のパウエル氏の姿勢を次のように批判している。
パウエル議長は今の金融政策が十分に引き締め的だということに過度に自信を持っているが、それは事実ではない。
中立金利が上がったこと、消費が元々考えられていたほどには高金利に反応しない状態であること、短期国債の金利上昇が預金者の収入増を意味することなどの様々な要因を考えると、現在の金融政策が十分に引き締め的だとパウエル議長が考えるならばそれは間違いだろう。
サマーズ氏は、コロナ後のアメリカ経済には景気を過熱させる様々な要因が増えているとこれまでも主張してきた。
それはつまり、より金利を上げなければインフレを退治できないということを意味している。
利下げ示唆は間違いだったか
にもかかわらずパウエル氏は去年の末から利下げをほのめかし、結果として金利は下がり、株価は上がり、パウエル氏の姿勢そのものがインフレ押し上げの原因となってしまった。
サマーズ氏と同じく2021年にインフレの危険性を警告していた1人であるスタンレー・ドラッケンミラー氏もこの点についてパウエル議長を批判している。
サマーズ氏は次のようにコメントしている。
Fedのやり方を昔まで振り返ってみると、特に2021年にそうだったことだが、まず彼らは強い意見を表明するが、経済指標が彼らの意見に反した方向に動いたとき、彼らは一度表明した強い意見を素早く撤回することができない。
2021年には、アメリカでインフレ率が既に7%まで上がっていたにもかかわらず、パウエル氏は「インフレは一時的」との見方を撤回しなかった。
そして結局インフレは止まらず、パウエル氏は意見を撤回し、利上げを余儀なくされることになる。
更に言えば、2018年にFedの金融引き締めが引き起こした世界同時株安でも、パウエル議長は株安の原因が自分の政策だということを認めず、そのまま株価は急落を続け、最後には引き締めの撤回に追い込まれた。
結論
サマーズ氏はインフレの根強さを認めず、いまだに利下げを口にしているパウエル氏について次のようにコメントしている。
そして今もまた同じことが起こっている。
何度も言うが、パウエル氏のこの癖のようなものは投資家にとって非常に重要である。何故ならば、今後もこのパウエル氏の癖に従ってFedの金融政策が決まるからである。
パウエル氏が緩和をやり過ぎた時にはパウエル氏はまたインフレ加速が手遅れになってから引き締めをやることになり、引き締めをやり過ぎた時には経済減速が手遅れになってから緩和することになるだろう。
どちらも経済や株価にとって致命的な影響をもたらす。だから「利上げも利下げもどちらも悪影響」なのである。株価にとって一番良いのは政策金利維持だろう。