アメリカ大統領選挙がドナルド・トランプ氏の勝利で終わってから最初の週末であり、投資家たちはそれぞれその後の戦略を考えていることだろう。
投票日にトランプ氏の優勢が伝えられた時、市場は大いに荒れた。株式市場は一度大きく下げ、それから一日で上昇に転じた。債券は世界的な大幅安となった。そうした動きを正確に予測出来た投資家は少なかっただろうが、しかし実は投票日の直前にほとんどリスクもなしに利益を得られる投資機会、いわゆる「市場に落ちているお金」が存在していた。これを拾っていなかったことを後悔しているのだが、投資アイデアの参考になるかもしれないと思ったのでここで紹介したい。
ボラティリティ・インデックス
そのお金が落ちていた市場とは、つまりはこれである。
これはアメリカの株式市場のボラティリティ・インデックスである。
ボラティリティとは、市場の値動きの激しさを表す用語であり、簡単に言えばこのインデックスの数値が大きければ大きいほど市場が荒れており、小さければ小さいほど市場が穏やかに推移すると投資家が予想しているということである。
事実、大統領選挙の投票日11月8日に近づくにつれて数値が上昇しており、トランプ氏の優勢が明らかになるにつれて市場が徐々に荒れていったのが読み取れる。トランプ氏が大統領になれば、不確実性から株式市場が大荒れになると予想した投資家が事前には多かったからである。
しかしここで着目してもらいたいのはその少し前、10月の後半の部分である。チャートをもう一度引用しよう。
大統領選挙も近いというのに、一旦インデックスが底まで下がっていることが読み取れる。10月24日には12台まで下落している。
ヒラリー・クリントン氏勝利を確信していた金融市場
この頃、金融市場はメディアによるクリントン氏優勢の報道を受け、クリントン氏の勝利を確信、投資家は株式市場が大統領選挙の結果で荒れることはないと予想していた。その結果が12台まで下落したボラティリティ・インデックスである。
しかしながら、その少し前の11月21日の支持率をここでもう一度取り上げてみたい。この日に世論調査を発表したのは3社であり、その結果は以下のようになっていた。順に調査会社、支持率優勢の候補、支持率の差の順に並んでいる。
- IBD – Trump +1
- Rasmussen Reports – Trump +2
- LA Times – Trump +1
トランプ氏の圧勝である。しかしこうした結果をメディアは報じず、トランプ氏は次の日にTwitterでこう吠えていた。
わたしが支持率でトップになった最新の3つの世論調査についてメディアは報道することを拒否している。無数の聴衆が見ているぞ、結果を楽しみにしていろ!
果たして結果は彼の言う通りになった。しかしメディアがこうした事実を一切報じておらず、しかもそれを市場が信じていたために、ボラティリティ・インデックスはその3日後に大統領選前の底値を迎えることになる。これが明らかな買い場だったのである。
世論調査を毎日見ていたわたしは、大統領選挙が少なくともクリントン氏の圧勝ではないことを知っていた。そうであれば、大統領選挙の結果がどうなるにせよ、その後市場がトランプ氏の支持率がそれほど低くないことに気付く瞬間が訪れたとき、市場はトランプ氏勝利後のリスクオフで市場が荒れる可能性を恐れ、その結果このボラティリティ・インデックスが暴騰することを予想出来たはずである。
事実、市場がそれに気付いたのは、メディアがその後一度だけトランプ氏優勢の世論調査について報じた時であった。多くの日本国民がそれに気付いたのもこの時であった。その時のことは報じており、ここの読者であれば覚えているだろう。
結論
こうした場面でボラティリティ・インデックスを買うことの利点は、株価が今高いとか低いとか、誰が大統領になれば株価はどう動くとか、そういうことを考えずとも良いということである。市場が荒れるならば上がる、穏やかなままであれば上がらない、ということであり、当時のボラティリティ・インデックスは、クリントン氏の圧勝が真実でない限り上昇を免れない指数だったのである。しかし当時のわたしは金利や選挙そのものに気を取られており、ボラティリティ・インデックスにまで気が回らなかったのである。
いつもならば、こういう逃したトレードは反省して終わりなのだが、ボラティリティ・インデックスをトレードする戦略というものは個人投資家の読者にはあまり馴染みのないものかと思ったので、ここで紹介した。投資には色々なやり方がある。そしていくつも手札を持っておくことは重要である。一つのやり方が駄目だったとしても、別のやり方が有効ということもあるからである。