世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログで中国経済と、ダリオ氏の投資における伝家の宝刀である分散投資について語っている。
ダリオ氏の投資の真髄とも言える考え方が語られているので是非読んでもらいたい。
中国の不動産バブル崩壊
あらゆる投資家が中国市場を避けている。何十年も続いてきた不動産バブルがついに崩壊しているからである。
だから長年中国に投資し、中国にも友人や知り合いがいて、政治の面でも中国に対する西洋諸国のバイアスのかかった見方を批判してきたダリオ氏は厳しい立場に置かれている。
それでもダリオ氏は中国市場から手を引いていないらしい。株価指数はかなり下落しているので間違いなく単に指数に投資をしているという意味ではないだろうが、中国市場から手を引かない理由についてダリオ氏は次のように述べている。
わたしはブームになっている時に飛び入りしてきて、状況が厳しくなったら逃げ出すようなことはしない。わたしは天気の良い時だけの友人でもなければ、天気の良い時だけの投資家でもないからだ。
分散投資と中国市場
株価が上がっている時に入ってきて下落してから逃げ出す多くの投資家への皮肉が入った言い方だが、このダリオ氏の言葉にはもう少し深い意味がある。
ダリオ氏はもう何十年も中国に投資しているが、彼は次のように述べている。
わたしにとって中国への投資はわたしが望んだあらゆる意味で成功してきた。
そこには分散投資と、どんな環境下でも上手く行く資産に重点的に投資するやり方によって、上げ相場でも下げ相場でも投資家は利益を得られるのだということを示すということも含まれている。
ダリオ氏が重視するのは分散である。それは多くの人が分散という言葉で思い浮かべるような、多くの株式銘柄を買うとか、株式と債券を両方買うとかいう意味ではない。
本当の分散投資
多くの株を買っても、インデックスを買っても、多くの国のインデックスを買っても、株式と債券を両方買っても、それは分散にはならない。
何故ならば、現在のグローバル化された市場ではあらゆる金融資産はアメリカの金融政策に連動してしまうからである。
アメリカの金融政策によって米国株の動向が決まる。米国株の動向によって日本株の動向が決まる。米国株が下落する時には日本株も下落するので、複数の国の株式を保有してもほとんど分散にはならないのである。
資産クラスを変えてもほとんど意味のないことが多い。株式と債券は金融緩和でともに上昇する。ゴールドでさえも分散にはならず、景気後退が来れば株価と一緒に下落してしまう。
分散と中国市場
だから現代の金融市場において分散投資は非常に難しい。そう思っていないのは適当にいくつかのインデックス銘柄を持っただけで分散投資になると思っている人々だけである。
そこで注目してもらいたいのが中国市場である。香港ハンセン指数は次のように推移している。
米国株や日本株が市場最高値を更新する一方で下落トレンドを続けている。
普通の投資家であれば「この市場は駄目だ」と思うだろう。だがファンドマネージャーは別のことを考える。「この銘柄は市場全体に連動していない、だから分散に使える」と思うのである。
更に、ダリオ氏や筆者のようなグローバルマクロ戦略の投資家にとっては別に下がっている銘柄を買う必要もないのである。空売りもできれば、オプションなどのデリバティブを取引することもできる。
投資の手段は買いだけではない。自分で自分の取引手段を制限しない投資家にとっては、市場が上がっているか下がっているかさえ関係がないのである。ダリオ氏は次のように付け加えている。
わたしの投資のやり方にとっては悪い市場などない。あるのは悪い判断だけだ。
これは名言だと思う。
結論
ファンドマネージャーは皆、相関しない銘柄の組み合わせを血眼になって探している。分散投資というものがどれだけ難しいかを理解しているからである。
しかし、もし本当の分散投資に貢献する銘柄を見つけることが出来れば、短期的に1つのポジションが下がっている時に別のポジションが上がってくれるので、ポートフォリオ全体としては短期のドローダウンを経験することなく長期的なリターンが実現できるのである。
アクティブ投資の一番の旨味は実はそこにある。金融緩和のある市場ではインデックスを買えば長期的にはリターンが得られる。だがそれでも10年に1回ある下落相場で40%や50%の短期的下落を経験することは避けられない。
しかし十分に分散されたポートフォリオがあれば大きな下落を経験することなしに毎年リターンを確保することができるのである。
ダリオ氏は次のように述べている。
わたしにとっての投資の聖杯は、互いに相関しない良いリターンの源泉を15以上確保することだ。
これは投資の真髄だろう。それは恐らく現代の金融市場における分散の難しさを痛感できている投資家だけが理解できる。
ちなみに中国経済については、ダリオ氏は金融緩和をしなければバブル崩壊後の日本経済のような停滞に突入するだろうと予想している。そちらも参考にしてもらいたい。