引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏のLinkedInブログを紹介する。今回は絶賛バブル崩壊中の中国がどういう経済政策を取るべきかについて語っている部分である。
中国の不動産バブル崩壊
前回の記事でダリオ氏は中国が100年に一度の経済危機に突入していると述べていたことを紹介した。
中国では長年の不動産バブルが崩壊している。2021年に恒大集団の問題が露呈して以来3年になるが、いまだにバブル崩壊は進行中である。
バブルは巨大であればあるほど崩壊に時間がかかるのである。
地方政府の作った負債バブル
中国の不動産バブル崩壊の中核にいるのは中国各省の地方政府である。地方政府の役人たちは共産党内部での自分の評価を上げるため、負債を増やすことで不動産バブルを引き起こし、自分の地域のGDPを上げるということを繰り返してきた。
ダリオ氏はこう述べている。
多くの企業や多くの地方政府が負債や財政問題を抱えており、それが重しとなっている。中国が適切に対処できなければ、それらは長期にわたって悪い影響を及ぼすだろう。
政治家に負債の増加を許すとろくなことにならないことがまたもや証明されたが、政治家はこれを元に戻すということができないため、中国国民にはこの負債をどうするのかという問題が残されている。
政府は債務再編を行なう必要があるが、それは美しい債務削減を通して行われなければならない。そうでなければ中国は日本のような失われた10年を経験することになるだろう。
「美しい債務削減」はダリオ氏が債務危機においてよく使う単語であり、ダリオ氏が過去100年の債務危機を網羅的に解説した著書『巨大債務危機を理解する』において詳しく説明されている。
美しい債務削減
中国政府はどうするべきなのか。ダリオ氏は次のように説明する。
多くの人が信用創造のために中国は金融緩和をすべきだと考えているが、わたしの考えでは信用と負債をこれ以上増やすことはアルコールからの離脱症状をアルコールを与えることで解消するようなものだということを中国政府は正しく認識している。
これはジム・ロジャーズ氏も指摘していた点である。
中国はGDP2%分の負債を抱えた恒大集団を救済しなかったが、アメリカではパウエル議長が利上げで去年危機に陥った地方銀行の救済のためにマネタリーベースの拡大を行なっている。
一方で中国ではゾンビ企業を政策によって生きながらえさせることをしていない。この意味では皮肉にもアメリカより中国共産党の方が資本主義的であると言える。
だが、それはバブル崩壊後の日本と同じ道ではないのか。作ってしまったバブルは最終的には崩壊させる以外の道はないのだが、それでも衝撃を和らげる方法はないのか。
ダリオ氏は次のように述べている。
わたしの考えでは、中国政府は債務削減(デフレ的で、経済を減速させ、債務負荷を減らす)と金融緩和(インフレ的で、経済を刺激し、債務負荷を減らす)を両方行なうべきだ。
そうすればインフレ的な債務不可減少とデフレ的な債務負荷減少が互いにバランスを取り合う。これがわたしの言う「美しい債務削減」だ。
結論
ダリオ氏の結論は理路整然としている。だがそれは政治的困難をともなうとダリオ氏は次のように指摘する。
わたしの考えでは、これは2年前に行われるべきだった。
それを行なうことは非常に困難で政治的な危険をはらんでいる。何故ならば、それはただでさえ人々の不満が溜まっている時期に富の大きな変化を引き起こし、それは政治的な問題を生む。
しかしわたしの意見では、もし中国政府が美しい債務削減を達成できなければ、中国は日本の失われた10年のマルクス主義バージョンを経験するだろう。
幸いにも中国はゼロ金利になっておらず、金融緩和の余地が残っている。そうすれば恩恵を受けるのはまず中国の国債だろう。中国の長期金利は次のように推移している。
金利低下は債券にとって価格上昇を意味する。中国の債券ETFはいくつか存在しているので、日本の投資家にとっても投資対象になるだろう。
中国の金利はここから日本のバブル崩壊後のように下がってゆくのだろうか。また、日本のケースでは為替レートはデフレによってむしろ上がったが、中国ではどうなるだろうか。
巨大債務危機を理解する