引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のCNBCによるインタビューである。今回は株式市場について語っている部分を紹介する。
インフレと金利上昇
コロナ後の過剰な現金給付によってインフレが起こり、金利は上昇した。ガンドラック氏はそれが金融市場全体に大きな影響を及ぼすと考えている。
ガンドラック氏は次のように述べている。
金利上昇の環境下では、金利低下の環境下よりも経済は脆弱になる。
(訳注:金利低下の環境下では金利が徐々に低くなるので)企業は借り換えを行なうことによって借金の利払いを減らすことができる。それが倒産を防ぐ。それがリスク資産の価格を支える。
だが金利が上昇していればギリギリの会社は倒産しなければならなくなる。
アメリカでは1980年をピークとして、その後40年間金利は低下してきた。ここでは何度も説明しているが、それが過去40年間の米国株が上昇し続けてきた理由である。株価は金利低下によって上昇する。金利低下が40年続けば株価は40年上昇する。
だが金利低下がなくなれば株価はどうなるのか?
金利上昇と株式市場
それはもう試した。以下の記事で説明したが、1980年以前のアメリカの物価高騰時代、金利が上がり続けた時代において、米国株は酷いパフォーマンスになった。
だがその時の相場を知らない素人の投資家たちが、過去20年だか30年だか米国株が上がったことを根拠に、これからも米国株は上がり続けると考えている。ここまでの説明だけで、それがどれだけおかしなことか分かるはずである。
金利は上昇し、アメリカ経済へのダメージは徐々に現れ始めている。最近の雇用統計が一番それを良く象徴している。
だが人々は経済統計の良い部分だけを取り上げ、悪い部分には目を背けながら株価を上昇させている。
ソフトランディング
金利を上げてもアメリカ経済は弱くならず株価は安泰だというわけである。統計データはそう言っていないのだが、彼らには関係がない。
ガンドラック氏はこう述べている。
よくある話だ。今や人々はソフトランディングについて語っている。これは去年はゴルディロックスと呼ばれていた。そして1999年に悟りの境地とか呼ばれていたものも同じだ。
ゴルディロックスとは経済が弱くないが、急激な利上げを呼ぶほどには強くもない、株価の上がりやすい状況のことである。そして1999年とは、ドットコムバブル崩壊の前年である。
ガンドラック氏は次のように続ける。
今や何処に言っても人々にこの「悟りの境地」的状況について聞かれる。
この状況はわたしに警戒させる。もう少し注意深く考えなければならないようなことについて誰もが考えることなく同意している。
筆者が金融業界とは無関係の周囲の人々と話していても、靴磨きの少年的な匂いを感じる。S&P 500を貯金と同じ感覚で買っている素人がどれだけ増えていることか。「株価は上がることもあれば下がることもある」という当たり前のことを説明しても彼らは一切信じない。彼らは株価が実際に下がるまでそれを理解しない。
それはバブルの頂点が近いサインである。何故ならば、株というものは後からより高値で買ってくれる人がいなければ利益の出る値段で売れないが、普段株式市場に来ないような素人が来た後にそれよりも高値で買ってくれる人などいないからである。
統計データを注意深く観察する人間には、アメリカ経済が明らかに沈みかけている様子が見て取れる。実際に問題が深刻になりつつあるにもかかわらず、誰もがそれを無視している状況である。
リーマンショックの前年にジョージ・ソロス氏が著書『ソロスは警告する』に書いていた状況が思い出される。
2007年春、ついに終わりのはじまりがやって来る。住宅ローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャル社が、サブプライム問題が原因で倒産したのだ。
そこから先は、私のバブルのモデルでいう「黄昏の期間」である。住宅価格が下がりはじめているにもかかわらず、ゲームの終了が読み取れない参加者が、まだ大勢残っている段階だ。
何度もバブルとその崩壊を見てきた投資家にとってはいつものことである。バブル崩壊前の景色は何度でも繰り返される。人は学ばないからである。
結論
ガンドラック氏はこうした雰囲気を感じ取っている。彼は次のように言っている。
わたしの目には、何かが起こっているように見える。世界的なトレンドがあり、それが陰りかけている。
単に誰もがそちらの方向を向いて頷いているからという理由で、自分もそちらの方向を向いて頷いてはならない。それが今の相場の状況だ。
そして次のように冷静に忠告している。
ポートフォリオの25%を現金で持ちたい。株式を安く買いたいからだ。そして年内にはより安く買えるタイミングが来るだろう。
ソフトランディングは来るのだろうか。そうでなければ米国株は株価を維持できない。他人と同じことをするのではなく、自分の頭で考えるべきだろう。
ソロスは警告する