EU利権の内紛: 天下りを巡って現欧州委員長と元欧州委員長が罵り合い

イギリスのEU離脱によってEUの欠陥に焦点が当てられて以来、EUの内部が非常に慌ただしくなっている。あらゆる手段を使ってヨーロッパ諸国の予算を支配下に収めようとした悪しき官僚主義には相応しい末路だろう。

その内紛の一つが現欧州委員長ジャン=クロード・ユンケル氏と前欧州委員長ジョゼ・マヌエル・バローゾ氏の口論である。発端は前欧州委員長のバローゾ氏がゴールドマン・サックスの幹部に就任すると発表したことに対し、現欧州委員長のユンケル氏が、EUに厳しい目が向けられている時期にそのようなあからさまな天下りは慎むべきだと非難したことに始まる。ロイター(原文英語)が状況を詳しく伝えているので、以下に紹介してゆきたい。

バローゾ氏のゴールドマン・サックス幹部就任

問題の発端はイギリスのEU離脱である。イギリスがEU離脱を決めた国民投票の2週間後、元欧州委員長のバローゾ氏がゴールドマン・サックスの幹部に就任し、EU離脱後のイギリスとEUの交渉に関して生じる様々な課題についてゴールドマンに助言を与えてゆくと発表された。

現欧州委員長のユンケル氏はこのあからさまな天下りに反発してバローゾ氏のゴールドマン入りを非難し、倫理面での調査を開始すると宣言した。欧州委員のモスコビシ氏も「欧州委員会のイメージにとって良くない」(Bloomberg、原文英語)と発言した。重要なのはイメージなのだろうか?

はっきり言ってしまえば、こうした天下りは典型的な癒着である。ゴールドマンが何を期待しているかと言えば、EU離脱後のイギリスとEUとの交渉から最大限の利益を得るために政治家の助言と影響力を保有したいのであり、政治家の側からしても高い給与を払ってくれる企業の存在は歓迎だということである。そもそもEU自体が政治家の更なる雇用の場として作られているのだから、ゴールドマンはその延長に過ぎないわけである。

EUが利権の場だというのはそういうことである。これまでは政治家にとって雇用の場とは各国の議会しかなかったものが、国の上にEUという新たな上部組織が作られ、そこに様々な役職が出来るのであれば、彼らにとっては新たな雇用の場が生まれることになる。事実、バローゾ氏はポルトガルの元首相であり、ユンケル氏はルクセンブルクの元首相である。本来ならばそこで終わっていたはずのキャリアが、EUやゴールドマンがあることによって継続されることになる。こうして見ればEUという政治機構の本質が見えてくるだろう。

バローゾ氏の言い分から透けて見えるEUの本質

こうした状況に対し、バローゾ氏自身は何と言っているか? ロイターがバローゾ氏の書いた書簡の内容を伝えている。

単にゴールドマン・サックスで働くという事実が汚職の問題を提起するということが主張されている。

誰もが自分の意見を持つということをわたしは尊重するが、規則は明確であり、それは守られなければならない。彼らの主張には根拠がなく、完全に不当なものだ。わたしに対して、そしてゴールドマン・サックスに対して差別的な意図が存在する。

そして更に重要なのは以下の部分である。

こうした主張は差別的であるだけではなく、過去の委員会のメンバーに対して取られた決定と明らかに矛盾している。

このバローゾ氏の言葉そのものがEU官僚たちの天下りがこれまでどういうものであったのかを物語っている。つまり、イギリスのEU離脱によってEUに批判的な目が向けられる以前にはこうしたことは当たり前のように行われていたのであり、ユンケル氏も本当に汚職が問題だと考えているからバローゾ氏を非難しているのではなく、今EUに更なる批判の目が向けられることを回避するためにバローゾ氏を糾弾しているということである。

もっと噛み砕いて言ってしまえば、バローゾ氏にとっては「これまでのメンバーは皆甘い汁を吸ってきたのであり、次は自分の番なのだから自分にも甘い汁を吸わせるべきだ」ということであり、現職のEU官僚たちを代表するユンケル氏にとっては「今批判の目を向けられると自分たち現職のメンバーの現在と将来の雇用にかかわるのでバローゾ氏は自重すべきだ」ということになるわけである。全員解雇してしまえば良いのではないか。

EU離脱で明らかになる官僚主義の悪

イギリスのEU離脱によって明らかになった悪しき官僚主義はEUのことだけではない。国民から集めた予算というものが存在する場所にはすべてこうした利権が存在するのであり、OECDも財務省も経団連も、最近話題になっているところでは東京都の築地市場の移転問題もすべて同じことである。

しかしこうした問題は今後次々に取り上げられてゆくだろう。イギリスのEU離脱は始まりに過ぎないのである。