レイ・ダリオ氏、素人の相場観が近視的過ぎることに呆れる

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がCNBCのインタビューに答えているが、司会者の質問に対するダリオ氏の反応が面白かったのでその部分を取り上げたい。

的中したダリオ氏の経済予想

インフレと利上げによってアメリカの莫大な政府債務が暗礁に乗り上げている。GDPの119%の債務に大きな金利が付きつつあり、米国政府は利払いのために更に国債を発行しなければならないが、国債を発行すると借金が増え、したがって利払いも更に増えてしまうからである。

それで米国債が売られ、金利が上がっている。そして金利が上がると更に利払いが増える。

もうどうしようもないのだが、ダリオ氏はこの状況をコロナ直後から予想していた。コロナ後の緩和がインフレを引き起こし、金利が上がり、そして今の状況になるということをダリオ氏は予想し、同じ状況に陥って衰退していった大英帝国やオランダ海上帝国などアメリカ以前の覇権国家の研究を2020年には始めていたのである。

ダリオ氏はこの考えを後に著書『世界秩序の変化に対処するための原則』として公開している。

「金利は下がりましたよね」

インフレを引き起こすインフレ政策によって、デフレと低金利の時代がインフレと高金利の時代に転換する。そして低金利の時代に積み上げられた莫大な借金が金利を持つことで暴れ始める。

ダリオ氏が予想していたのはそういう大きなトレンドである。そしてアメリカは高金利の結果に直面しつつある。

だからダリオ氏は最近高金利の話をずっとしていた。それに対してインタビューで司会者はダリオ氏にこう言った。

9月にあなたはアメリカが債務危機に直面しつつあると主張していました。でも先週金利はかなり動きましたよね。まだ同じことを考えていますか?

これを読んだだけでダリオ氏がどう思ったか分かってほしいものだが、どうだろうか。ダリオ氏はこれを聞いた途端苦笑している。苦笑するしかない。

このインタビューは11月17日に行われているのだが、その頃のアメリカの長期金利のチャートは次のようになっている。

司会者が言っているのは、このチャートが10月末にピークの5%付近に達した後、4.5%辺りまで下がってきた最後のわずかな下落のことである。

何を言っているのか? このチャート上のわずかな動きが、ダリオ氏が2020年から予想してきた巨大トレンドの何を変えるというのか? 本気でそう思っているのか? 本気でそう思えるのだろうか。

結論

だが、個人投資家と話しているとよくそういう話になる。

彼らは先週市場がどう動いたのか、ここ数ヶ月上がったのか下がったのかを気にしている。「ドル円は大きく下がりましたよね」。チャートを見てみると2円しか動いていない。何を言っているのか?

最初のうちは、筆者やダリオ氏が気にもしないようなことを彼らは何故いつも気にしているのか理解できなかった。だが彼らと長く接するうちにその理由が分かった。

その理由は、彼らの大半はより重要な長期トレンドのことを理解できないからである。長期トレンドを理解できなければ、短期トレンドを気にするしかない。

彼らが気にするのは目先の動きであって、1週間や2週間で儲かったのか損をしたのかである。だが短期トレードで勝とうとするというのは、大量の科学者と高性能のコンピュータを抱えてシステムトレードをするジェームズ・シモンズ氏のヘッジファンド、Renaissance Technologyに家のノートパソコンと1人の頭で挑むことだということを彼らは理解しない。ドン・キホーテである。

短期的な値動きを気にすれば気にするほど勝てるトレードから遠ざかってゆくのに、彼らの目にはそれしか映らないのである。ダリオ氏やスタンレー・ドラッケンミラー氏の類似の記事も参考にされたい。