ロスチャイルド卿が金買い: 「低金利政策は史上最大の金融実験」

ソロス氏に続いて今回はロスチャイルド卿の動向をお伝えしよう。RIT Capital Partnersの2016年の中間レポートで、ロンドンロスチャイルド家の当主であるジェイコブ・ロスチャイルド氏が2016年の相場観とポートフォリオについて語っている。

前回の記事ではソロス氏が金鉱株を売却して米国株の空売りを倍増したニュースをお伝えしたが、ロスチャイルド卿の相場観はどうだろうか。

RIT Capital Partnersはソロス氏のヘッジファンドなどと比べてより長期の投資に重点を置いているため、短中期的な市場の動向に対して機動的にポジションを変えていっているわけではないが、それでもロスチャイルド卿の長期的な見方を知ることは出来る。

史上最大の実験

ロスチャイルド卿は史上例のない規模で展開される低金利政策に言及することから話題を始めている。

今回批評する2016年前半においては、われわれは中央銀行が金融政策に関する史上最大の実験を続けている様子を目の当たりにした。われわれは羅針盤のない海上を進んでおり、極端な低金利の予期せぬ副作用を予言することは不可能である。世界の国債の30%がマイナス金利となり、大規模な量的緩和が行われている。

少なくとも株式市場においてはこうした金融政策は今のところ成功している。株価指数は史上最高値付近で推移し、ボラティリティは全体として低位で安定している。ほとんどすべての資産クラスが金融政策の波によって押し上げられた。一方で経済成長は精彩を欠いたままであり、先進国のほとんどの地域で弱い需要がデフレをもたらしている。

ロスチャイルド卿が言及するのもやはりデフレである。1月のダボス会議においてソロス氏も「キーワードはデフレだ」と発言していた。そのソロス氏が金利上昇を懸念するポジションを取っていたというのが前回の論点であった。

2%を超えて推移するアメリカのコアインフレ率を懸念している金投資家にとっては、世界経済の長期トレンドを確認しておくことは重要だろう。

2016-jul-us-inflation-rates-cpi-and-core-cpi

ロスチャイルド卿のポートフォリオ

では、こうした背景のもとでロスチャイルド卿はどのようなポートフォリオを組んでいるのか?

RIT Capital Partnersはヘッジファンドのように空売りを積極的に行ってゆくようなファンドではないため、株式の買いがメインのポジションとなっているが、ポートフォリオ内に占める公開株式の割合は緩やかに、しかし着実に減少している。

  • 2014年後半: 68.7%
  • 2015年前半: 68%
  • 2015年後半: 67%
  • 2016年前半: 59%

2008年の金融危機前後においてはこの比率は30%前後にまで落ちていたから、ロスチャイルド卿は現状では極端な弱気ではないものの、ポートフォリオは徐々にその水準に向かっていっている。

ドル高、金融政策、金投資

また、株式以外のポジションについては次のように述べている。

われわれは金と貴金属の比率を6月末の数字で8%まで高めた。(中略)ドルが上昇したこと、そして金やその他の通貨に興味深い投資機会があることから、ドルへのエクスポージャをいくらか減らした。金への投資は金融政策と低下し続ける実質金利へのわれわれの懸念を反映している。

金価格と実質金利の関係についてはここで以前詳細に議論した通りであり、ロスチャイルド卿も同じものを見ているのだということである。実質金利が下がれば下がるほど、金相場には有利となる。わたしの実質金利の推移予想については以下の記事を参考にしてもらいたい。

2016-jul-gold-price-and-10-year-treasury-inflation-protected-security

ロスチャイルド卿の運営するRIT Capital Partnersは株式の買いがメインであるにもかかわらず、昨年からの相場が荒れた局面でも手堅いリターンを出し続けている。以下は純資産の半年ごとの変化である。

  • 2014年前半: +2.4%
  • 2014年後半: +7.1%
  • 2015年前半: +6.4%
  • 2015年後半: +1.7%
  • 2016年前半: +3.6%

ヘッジファンドのような派手さはないが、長期的に資産を増やしてゆくのだという気概が感じられる。ロスチャイルド卿が今後の難局をどう乗り切ってゆくのか、機会があればまた取り上げてゆきたい。