さて、インフレが起こって以来最重要指標とも言える最新9月のアメリカ雇用統計が発表された。順番に数字を紹介していこう。
底打ちする失業率
まず失業率は3.8%で、前月と同じだった。
緩やかにだが、底打ちして徐々に上方向に上がっていっているのが分かる。
ジェフリー・ガンドラック氏によれば、コロナ後にばら撒かれた資金が徐々に目減りしてきていることによって、経済の減速が始まっている。
ばら撒かれた資金が金融引き締めによって回収され、インフレ政策によって無理矢理押し下げられた失業率が本来の水準に戻ろうとしている。失業率は、アメリカ経済の実体を今一番よく表している数字だと言える。
賃金減速
次は賃金だが、平均時給は前月比年率(以下同じ)で2.5%となり、前月の2.9%から更に減速した。
賃金はサービス業にとって直接の費用となるので、インフレを予測する上では失業率よりもこちらの方が重要である。
その賃金は減速を続けている。明らかにデフレを示唆する数字である。
さて、物価に影響するのは1人当たりの1時間の賃金である平均時給だが、労働市場に費やされた資金全体はどうなったのか。平均時給に平均労働時間と全労働者数を掛ければ、全労働者に支払われた賃金の総額がおおよそ得られる。
賃金総額の成長率は次のようになっている。
労働市場全体に支払われた金額もやや減速している。
この賃金総額は移民によって労働者の数が増えている影響で、平均時給よりは減速していない。だがそれは逆に言えば、移民によって労働者の供給が増えていることで労働の価格(つまり賃金)が減速しているとも言える。
アメリカ経済を占う上では人口は非常に重要な要素なので、移民についてもう少し述べてみたい。
移民による労働者増加
平均時給が減速する一方で、労働者数は今回特に増えた。その原因はそもそも生産年齢人口(15歳から64歳)が増えていることであり、生産年齢人口のグラフは次のようになっている。
2020年までのトランプ政権とコロナ後のロックダウンが抑えていた移民流入数がバイデン氏の政策によって激増している様子が分かる。
アメリカでは国境付近のテキサスやフロリダで移民が溢れかえり、移民に反対する国境付近の州が移民政策に賛成する与党民主党が強いニューヨークや首都ワシントンなどに移民を送りつけるなどの騒ぎになっている。
バイデン氏は移民問題で責められたことで、トランプ政権時代に予算が割り当てられた通称「トランプの壁」の建設を再開することになった。
移民の多くはアメリカに来て仕事を探すことになるので、それが労働者増加に寄与しているのである。
結論
そうして労働者が増えたことで全体の時給が下がっている。金融市場は労働者の増加を経済が強い証拠と見て株高で反応したが、もし経済が強かったならば、平均時給は減速しなかっただろう。
アメリカ経済は移民流入を消化できていない。むしろ、元々居たアメリカ人と移民との間で職の奪い合いが発生している。
労働者の増加は確かに株価にはプラスである。平均時給が抑えられれば、時給を受け取る国民にはマイナスだが支払う方の企業にはプラスである。ユニクロの柳井氏などが移民賛成派である理由がそこにある。
だが時給は減速している。そうすれば消費もいずれ減速し、回り回って企業は更に増加する労働者をすべて雇うことが難しくなる。そうして失業率が上がってゆく。経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の予想した状況が実現しつつある。
今回の雇用統計は明らかにデフレ寄りである。だが移民の流入が時給を押し下げていることには政治的な意味もある。
来年の大統領選挙はこのまま行けばトランプ氏とバイデン氏になりそうだが、雇用統計は移民流入を抑えようとしたトランプ氏的な政策が人気を得る土壌が出来上がっていることを示している。
そろそろ来年の大統領選挙がどうなるかも考えて動かなければならない時期が近づいている。タイムライン的に、選挙のある11月には景気後退が既に起こっているだろうと推測している。
その景気後退にどう対応するのかが大統領選挙で決まることになりそうである。