引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏によるブログの内容を紹介する。今回は米国債の金利と株価の関係について話をしている部分を取り上げたい。
アメリカの長期金利上昇
前回の記事では、ダリオ氏がアメリカの長期金利について語っている部分を取り上げた。
アメリカの長期金利は上昇を続けている。チャートは次のようになっている。
長期金利、つまり10年物国債の金利上昇は、株価にとって大きな問題である。無リスクである国債を保有すれば5%近い金利を得られるにもかかわらず、下落リスクのある株式を保有する人がどれだけいるかということである。
最近の株価下落はそれが原因である。だがダリオ氏は前回の記事で、ただでさえ上がっている長期金利をまだまだ低いと言っていた。
彼の見積もりでは、長期金利は5%から5.5%になったとしてもまだ上昇する余地があるという。
株式のリターンと金利の比較
これは株式にとっては厳しい状況である。だが、金利が上がるとしても、株式がそれ以上のリターンをもたらしてくれるのであれば、株式を保有する理由はあるだろう。
株式のリターンはどうなのか? ダリオ氏は次のように述べている。
現状では株式市場は5%から5.5%の期待リターンをもたらす。
もう駄目ではないか。ダリオ氏がそれでも低いとする国債の金利の水準と同じであり、まだそこまで上がっていない現在の長期金利ともそれほど変わらないのである。
ダリオ氏は株式の期待リターンについてこう続ける。
これは国債の金利との兼ね合いではかなり低い(特に、国債の金利がこれから上がるだろう状況ではそうであり、金利が上がれば株価は下がりやすい)。
ダリオ氏の米国株株価予想
国債にとって金利上昇は価格下落を意味するので、金利上昇を予想しているということは、ダリオ氏は国債の価格下落を予想しているということである。
株式市場も同じである。期待リターンが低く、株式に魅力がないと投資家が考えた場合、株価はどうなるか。投資家が集まらず株価が下がり、株価下落によって価格上昇余地が生まれることで期待リターンを改善するのである。
これは金融の多少難しい話だが、簡単に言えばそのままでは誰も買わないので株式は安売りされるということである。
国債も株式も駄目ならば、この状況でダリオ氏の推奨する投資は何か。ダリオ氏は次のように述べている。
この状況では現金が復活する。現金には実質的に価格変動リスクがなく、株式市場や国債の期待リターンと比べても良い金利水準だと言える。
インフレが起こったから株式を買えという話を読者も何処かで聞いたことがあるのではないか。だが面白いことにダリオ氏はインフレと金利高騰の場面で現金を奨めている。
前にも書いたが、インフレで利上げするまともな中央銀行さえあれば、実はインフレは消費者にとって何ら脅威にはならないのである。何故ならば、インフレで預金が目減りする分だけ金利も上がるので、インフレによる預金の減価を金利収入が補ってくれるからである。
一方で、インフレの時代における株式の実質リターンは最悪である。
1970年代の物価高騰時代において株式の実質リターンがどうだったかは以下の記事で解説した通りである。
今回の記事はその理論的な理由になる。ダリオ氏が説明しているように、その理由は株価のリターンが国債や預金に魅力で負けるからである。
結論
ダリオ氏は次のように述べている。
国債金利は5.5%から6%まで上がるだろうし、株式の期待リターンはそれ以上に拡大するだろう。
「株式の期待リターンが拡大する」というのは、上で説明したように株価下落によって将来の上昇余地が確保されるということである。
ダリオ氏はこう続ける。
だからわたしは国債も株式も両方下落すると考えている。
現在、米国株は次のように推移している。
ちなみに筆者は最近の株価下落について6月末の段階で警告しておいた。
もう何年も記事を書いているのでいつものことだが、ここの記事は多くの人に読まれていない時期が一番価値を持っている。多くの人が割高な米国株に飛びついているのと同じ状況である。
最後にもう少し理論的な話をしておこう。株価が金利に比べて割高であり、それがこれからもし是正されるとしたら株価は何処まで下がるのか、それが投資家にとって気になることだろう。
それについては以下の記事で詳しく計算しておいた。
だがこの記事での計算でさえ、現在の金利水準を基準に株価の適正値を計算したものである。ここから更に金利が上がるならば、当然株価はそれ以上に下落することになる。