2011年の東日本大震災を受け、ドイツは脱原発を決定した。17基あったドイツの原発は現在すべて停止されている。だが昨今のエネルギー事情を受けてドイツ人はそれを後悔しているようだ。
脱原発を完了したドイツ
9月2日にドイツのショルツ首相は脱原発が既に終わったことを再確認するように次のように言った。
原子力エネルギーは終了した。原子力エネルギーの議論はドイツでは死んだ馬だ。新たに原子力発電所を建てたければ15年の月日と1基につき150億ユーロから200億ユーロの予算が必要になる。
何故そんなことを今更言わなければならなかったかと言えば、エネルギー不足が問題となるなかでドイツ国民の中で脱原発を後悔する声が強くなっているからである。
その声はロシアのウクライナ侵攻が始まった後から上がり始めた。そしてそれは今も続いている。ドイツでは今年の4月に可動していた最後の原子炉が停止されたが、その直前にYouGovが行なった世論調査によれば、たった26%が原子炉の即時停止を支持したのみで、32%は原子炉停止の延期を支持、33%は原子炉の可動継続を支持した。
つまりドイツ人のうちおよそ3分の2が、2011年に東日本大震災を見た後で自分が感情的に行なった脱原発の決定を後悔しているわけである。脱原発が正しいか間違っているかはここでは議論しないが、自分でそれを後悔している以上、当時のドイツ人の結論が感情的だったことに異論の余地はない。
ヨーロッパのエネルギー問題
何故ドイツ人が脱原発を後悔しているかと言えば、エネルギーが足りないからである。きっかけはウクライナ情勢である。
ロシアのウクライナ侵攻後にアメリカ主導で行われた対ロシア制裁によって苦しんだのはロシアではなかった。それはヨーロッパだった。何故ならば、ヨーロッパはパイプライン経由でロシアから大量の天然ガスを輸入していたからである。
日本を含む西側諸国は制裁によってロシア産のエネルギー資源を禁輸した。ヨーロッパは大量のエネルギー供給を失った。ロシアは代わりに中国やインドに原油などを売った。西側以外に流れたロシア産の原油は結局は高値になって西側にも転売された。
それだけの話である。この馬鹿げたロシア制裁のお陰でヨーロッパの天然ガス価格は冬場に何倍にも膨れ上がった。本来ならば、ロシアから輸入していた分のエネルギーを別の供給源から補えば良いだけの話なのだが、ドイツにはそれが出来なかった。脱原発と脱炭素によって原子力発電も火力発電も自分で制限していたからである。
ロシア制裁と脱原発と脱炭素
ここでは何度も言っているが、脱炭素政策は単にいわゆる再生可能エネルギーを推進するだけの政策ではない。融資の制限などを通して、化石燃料を採掘する会社の資金源を絶ち、原油や天然ガスを掘らせないようにする政策である。
それに加えてドイツは脱原発まで行なってしまっている。原油も天然ガスも原子力も嫌ってしまっては、もうあとはろうそくしか残っていない。
冗談はさておくが、太陽光や水力だけで国内のエネルギー消費を賄えないのも、太陽光や水力が環境に優しいとは言えないのも単なる事実である。リベラルな人々とは、温暖化によって海岸近辺の町を海の底に沈めないためにダムの建設地にある山中の村を平気で水没させる人々である。
更に言えば電気自動車は大量のレアメタルを消費するため、アフリカの山々では大規模な自然破壊が行われている。だがリベラルな人々は気にしない。ドイツ人が脱原発を後悔したのが自分のエネルギー消費が危うくなった時であったように、彼らが間違いを認めるのは他人に害が及んだ時ではなく、自分に害が及んだ時だからである。
脱炭素とウラン価格
いずれにせよ、原油と天然ガスと原子力のすべてを嫌うことはできない。ドイツ人でさえ脱原発を後悔しているということがそれを証明している。すべてを嫌ったドイツ人は風呂に入らないという選択を推奨していたが、流石に限界のようだ。
原油も天然ガスも原子力も嫌って風呂を沸かすエネルギーさえ賄えなくなったドイツ人は、菜食以外のすべての食事を嫌って病院に放り込まれているヴィーガンに似ている。
エネルギーに話を戻そう。ドイツで原発が再開することがなかったとしても、西側と東側の対立が進む限り、西洋人が脱炭素を諦めない限り、西洋人が原子力発電を選ぶというトレンドは避けられないだろう。だから、ウラン価格は長期的には東日本大震災前の水準を大きく上回ってゆくはずだ。
ウラン価格は実際、筆者がウラン投資を推奨した記事以来上昇を続けている。
結論
西洋人は何もかもを後悔している。自分で移民を入れてそれを後悔し、自分で脱炭素をしてそれを後悔し、自分でロシア制裁をしてそれを後悔している。筆者はこれを西洋の長期自殺トレンドと呼んでいる。
金融市場では長期トレンドを見つけさえすればほとんど何にでも投資ができる。西洋の長期自殺トレンドに投資するための方法は、ウラン投資とユーロスイスフランの空売りである。
ただ、ウラン投資についてはAI銘柄のNVIDIAと同様、長期的な展望は明るくとも来年に予想されている景気後退にはネガティブな影響を受ける。
避ける方法についてはNVIDIAの記事に書いているので、参考にしてもらいたい。