8月24日、AIや暗号通貨などの複雑な演算に使われるGPUを開発するNVIDIAは決算を発表し、売上高が88%、純利益が202%上昇したことを発表した。
NVIDIAの好決算
ChatGPTが話題になったことでGPUの注文が殺到したのだろう。NVIDIAの成長率はすさまじい。四半期の1株当たり純利益の推移は次のようになっている。
- 2022年7月: 0.26ドル
- 2022年10月: 0.27ドル
- 2023年1月: 0.57ドル
- 2023年4月: 0.82ドル
- 2023年7月: 2.48ドル
最新四半期の業績はChatGPTが話題になった直後のものなので、AI特需と言うべきだろう。前四半期から3倍になった成長率をずっと維持できるわけではない。
だがそれにしても株式市場の反応はどうだろうか。24日の決算発表後一時的には上がったものの、その後一度下がっている。
これだけの好決算を出しながら、一度決算前よりも株価が低くなっていることが株式市場の面白いところである。
NVIDIAの株価は今年既にかなり上がっているから、好決算は織り込まれていたのだと言う人もいるかもしれない。だが株価が一度下がったタイミングで、NVIDIA株は他の米国株と比べれば決して割高ではないということを記事に書いておいた。
アナリスト予想平均では、NVIDIAの1株当たり純利益は来年初めには10.77ドル、再来年初めには16.71ドルになる(数日で上記の記事の頃より上方修正されている)。この数字に即せば、現在100を超えるNVIDIAの株価収益率は1年半で30にまで落ちることになり、高成長のハイテク企業としては割高でも何でもなくなるのである。
NVIDIAの長期的成長
だが今回の記事で考えてもらいたいのは、短期的な決算に不確定性はあるとしても、今回の決算におけるAI特需は、長期的に見ればAI需要の始まりでしかないということである。
まだAIはほとんど使われていない。将来それが広範囲に使われるようになった時のGPUの需要は、今回の衝撃的な決算を大きく上回るはずである。
にもかかわらず株価がむしろ下がった株式市場の様子を見て筆者が思い出したことがある。iPhone発売後のApple株の値動きである。
当時トレーディングしていた人は金融業界でももはやそれほど多くはないのかもしれないが、今や誰もが使っているスマートフォンの誕生とも言えるその瞬間は2007年に訪れた。携帯電話では精々電話とメールくらいしか出来なかった当時、音楽再生デバイスだったiPodに電話とインターネットの機能を組み合わせたのがiPhoneだった。
Apple創業者のスティーブ・ジョブズ氏が発表時のプレゼンテーションで「iPod、電話、インターネット…もうお分かりですね?」と言っていたのを今でも覚えている。
iPhoneの価値を理解していた人間ならば、この発表のAppleの株価に対する意味を即座に理解したはずである。だが2007年1月9日に行われた「スマートフォン発売の発表」のあと、Appleの株価がその後どうなったかと言えば、こうなっている。
1月9日の発表後、NVIDIAの株価とまったく同じように発表前の水準まで一度株価が下がっていることが分かるだろう。この動きがどれだけ馬鹿げたことか、今スマホを持っているあなたなら分かるはずである。
価値を理解しない株式市場
株式市場というのはそういうものなのである。だから株価が短期的に上がったり下がったりすることに一々反応する意味はない。良いものが安くなれば買い、悪いものが高くなれば売るだけである。
だがAIはスマートフォンのような発明なのだろうか。NVIDIAをポートフォリオの主力にしているスタンレー・ドラッケンミラー氏は次のように言っていた。
暗号通貨とは違ってAIは本物だ。インターネットと同じくらいの革命かもしれない。これは大きな革新だ。
そしてドラッケンミラー氏は正しい。だが世の中の人々が思っているような意味で正しいのではない。
例えば便宜上AIとは言ったものの、ChatGPTは人工知能ではない。人間のように考えたり、結論を出したりすることは出来ない。イーロン・マスク氏のようにAIが人間より賢くなって人間を支配するようになるとか、あるいは逆にChatGPTに数学の問題を解かせて正解できなかったと言っている人は、両方とも使い方を完全に間違っている。特にマスク氏は確信犯的に無意味なことを喋っている。それが彼のマーケティング技術なのである。
ChatGPTが革新的なのは、本来プログラミングなしではコンピュータにさせることが出来なかった作業をプログラミングなしで行えることである。つまり、プログラマが居なくとも実質的にプログラミングが行えることになる。
その応用範囲は途方もなく広い。まだ人々がその使い方の広大さに気づいていないだけである。ドラッケンミラー氏が次のように言っていたことを思い出したい。
NVIDIAが短期的に下がることがあるか? イエスだ。だがAIはトップレベルのプログラマの生産性を5ヶ月前に比べて7倍か8倍にしている。7倍か8倍だ。
「AIがプログラマの生産性を上げる」という言葉の意味を理解した人はそれほど多くなかったのではないか。だがそれはそういう意味なのである。ChatGPTに馬鹿げた課題を与えて喜んでいる場合ではない。
NVIDIA株のトレーディング戦略
ということで、現在のNVIDIA株はスマートフォン発表直後のApple株に似ている。
だが思い出してほしいのだが、iPhoneの発表は2007年である。その1年後に何が起こったかは、投資家ならば誰でも知っているだろう。
リーマンショックである。そうしてiPhone発表後に倍以上になったAppleの株価は、2年を経て再びiPhone発表前の水準まで戻ってきている。
株式市場とはそういうものである。結局、どれだけ優れた個別株であっても市場全体の強力な流れには勝つことができない。
そして筆者は2024年のアメリカ経済の景気後退を予想している。
そこまで含めてNVIDIA株は当時のApple株に似ている。だが、Apple株が長期的にどうなったかは、言うまでもないだろう。
だから、NVIDIA株の投資戦略は3つある。1つは他の米国株に比べればかなり割安なNVIDIA株を今保有して、来年の景気後退リスクを別のポジションでヘッジすること、もう1つは来年株価が下がってから買うこと、そして最後は今年や来年の値動きを気にせず10年以上持ち続けることである。
どの戦略が自分に合うかはその人次第だろう。既にNVIDIA株を大量に買っているドラッケンミラー氏が株式市場についてどう考えているかも参考にしてもらいたい。