今週はジャクソンホール会議などのイベントもあったが、金融市場ではもう1つ注目すべきイベントがあった。NVIDIAの決算発表である。
AI銘柄筆頭のNVIDIA
とは言っても筆者が勝手に注目していただけだが、将来が注目されているAI関連の筆頭銘柄ということもあり、注目していた人も多いのではないか。少なくともジャクソンホール会議よりは重要だったかもしれない。
NVIDIAはAIなど高度な計算を必要とするソフトウェアに必須のGPUを提供しており、暗号通貨とAIの両方に使われている非常にトレンディーな銘柄である。ビットコインなどに否定的な人であってもブロックチェーンの将来性については否定しないだろうから、2つの高成長業界を担っているNVIDIAの将来性については理解してもらえるだろう。
NVIDIAの株価は現在次のように推移している。
NVIDIAの最新決算
さて、まず最新の決算がどうだったかだが、3ヶ月前の前四半期と比べて売上などの数字がどう変わったかを見てもらいたい。
- 売上: 72億ドル -> 135億ドル (+88%)
- 営業利益: 21億ドル -> 68億ドル (+224%)
- 1株当たり純利益: 0.82ドル -> 2.48ドル (+202%)
脅威の成長率である。ChatGPTの発表によってAI需要が急増している。ChatGPTが注目を集めた直後の四半期である今回の決算はもちろん特需と言うべきだが、AI需要が一過性のものでなければ、長期的にかなりの高成長を続けることは事実だろう。
もう一度株価チャートを引用するが、この決算の直後であるにもかかわらず、株価の反応が鈍いと言えるだろう。
この決算は期待外れだったのか? それともこれくらいの好決算は事前に織り込まれていたのだろうか。
460ドルという現在の株価の水準が高いかどうかを調べるためには、次のように簡単な計算をしてみれば良い。
NVIDIAのバリュエーション
まず、株価が460ドル、1株当たり純利益は直近1年で見れば4.14ドルなので、株価収益率は111倍である。S&P 500全体の株価収益率が24倍だから、この数字だけを見るとかなり割高である。
だが3ヶ月前の前回の決算の純利益で株価収益率を計算すると240倍になるから、利益の急増によって株価収益率はかなり下がっている。純利益が高成長すれば株価収益率がどれだけ急速に下がるかという良い例になったのではないか。
それがまさに、グロース株を単に株価収益率の数字では評価できない理由である。グロース株は今の決算の数字ではなく、3年後、5年後、10年後の決算の数字で評価しなければならない。
それが同時にグロース株が将来の貨幣価値の減少であるインフレに弱い理由でもあるのだが、インフレは収まってきている。
将来の株価収益率
では、NVIDIAの株価収益率は今後どうなってゆくのか。それがNVIDIAの今の株価が高いのか低いのかを決める。
アナリスト予想の平均値によれば、NVIDIAの1株当たり純利益は来年の初めに9.66ドルになり、再来年の初めに14.98ドルになる。
この数字を使って計算すると、仮に株価が現在の460ドルのまま動かなければ、株価収益率は来年に48倍になり、再来年には30倍まで下がる。ここまで下がればほとんど市場平均であり、ハイテク株としてはごく普通の水準になる。
だが、NVIDIAは売上高が今四半期に88%成長している企業である。それが一時的な特需だとしても、再来年にNVIDIAの成長率が普通のハイテク株以上のものになると考えるならば、この株価収益率は不合理ということになり、株価は上がらざるを得ない。
結論
ということで、今週の好決算によってNVIDIAの株価はますます割高ではないものとなったと言わざるを得ない。
前にも言ったが、唯一の問題は米国株全体がどうなるかである。筆者は来年にはアメリカ経済が景気後退入りすることを見込んでいる。
そして米国株全体に関して言えば、金利水準に比べて歴史的な割高水準にあると考えている。
NVIDIAの株価水準がそれより遥かに割安な水準になるとはいえ、リスクオフになればグロース株から売られるのが世の常である。そうなればNVIDIAの株価は一時的に市場全体のパフォーマンスを下回る可能性がある。
だが、AI需要が本物であれば下落後数年で取り戻せるだろう。今後10年以上のスパンで投資を考える人には、買いを考えて良い水準だと言える。市場全体を空売りし、NVIDIAを買い持ちにするというロングショートの選択肢もある。
スタンレー・ドラッケンミラー氏のように、景気後退を予想しながらもNVIDIA株は問題ないと考えるファンドマネージャーもいる。彼は次のように言っていた。
NVIDIAのような企業の受注や利益はハードランディングでも70%上がるのではないかと思っている。
前にも言ったが、そうなれば、消費財株の株価が景気後退でも上がるのだから、NVIDIAの株価がハードランディングで下がるだろうか。現在の高いバリュエーションを考えてもだ。
筆者は流石にそこまでは考えていないが、利益の急上昇についてドラッケンミラー氏の予想は当たっている。NVIDIAは実際、ドラッケンミラー氏のポートフォリオにおける最大ポジションなのである。