アメリカの長期金利上昇が原因で株式市場が下落し話題になっているが、その原因についてもう少し深堀りしてみよう。
株価水準と金利
金利上昇で株価が下落している背景には、国債の金利と株式が競合する事実がある。(理論的に)無リスク資産である10年物国債の金利が4%を超えているということは、株式は今後10年間それを十分に越えるリターンを約束できなければ、投資家にとって場合によっては何十パーセントの損失のリスクのある株式を持つ意味はない。
だから金利が上がれば上がるほど株価には不利になる。以前から言っているように米国株は元々金利と比較して市場稀に見る割高水準だったのだが、多少金利が上がり始めると金融市場は今それに気づいたかのように振る舞い始める。相場とはそういうものである。
さて、長期金利、つまり10年物国債の金利がどうなっているかと言えば、こうなっている。
8月に入って高値更新を続けている。それでS&P 500の方は次のようになっている。
長期金利の上昇に対応するかのような失速である。中国の不動産バブル崩壊の問題もあるだろうが。しかしこちらも2021年から分かっていたことであり、今更である。
長期金利上昇の原因
さて、では金利上昇の原因は何か。巷ではインフレが長引くことを想定してという何の根拠もない主張が横行しているが、市場の期待インフレ率はむしろ下がっているのでそれは間違いであるということを先日の記事で指摘しておいた。
期待インフレ率が下がっているにもかかわらず金利が上がっているというのは良い兆候ではない。それでも経済が耐えられるなら良いが、株価の様子を見ると必ずしも金融市場はそうは思っていない。
国債にとって金利上昇は価格下落を意味するので、経済のファンダメンタルズと金利上昇が合わない場合、その金利上昇は国債からの資金流出を意味しているのである。
利下げを織り込む金利先物市場
さて、前の記事では期待インフレ率を根拠にそれを論じたが、今回はもう1つ別の根拠を挙げたい。2年物国債の金利である。それは以下のように推移している。
長期金利が上がっているにもかかわらず、2年物国債の金利は7月のピークよりも3月のピークよりも下がっていることに注目したい。
つまり短期金利を見るならば、金利は上がってなどいないのである。
むしろ金融市場は今後の利下げを織り込んでいる。金利先物市場によれば、現在5.25%である政策金利は、来年末には4.25%まで下がることがメインシナリオだという織り込みになっている。
結論
ここに現在の株安のもう1つの問題がある。期待インフレ率が下がっているにもかかわらず金利が上がっていることが1つの問題であれば、市場はこれから1%もの利下げがあると予想しているにもかかわらず長期金利が上がっているということももう1つ大きな問題なのである。
つまり、市場では経済動向や金融政策とは関係なく長期金利が上昇している。金利上昇は債券にとって価格下落を意味するので、それは実体経済と金融政策とは関係のない理由で米国債の価格が下落していることを意味する。
アメリカ経済はどうなるだろうか。機関投資家らの意見も割れている。筆者の予想についても近々もう一度記事にするつもりある。