碧桂園の破綻危機と何も終わっていない中国の不動産バブル崩壊

中国の不動産危機と言うと何を古い話をと思う日本の個人投資家も多いかもしれないが、2021年に表面化したこの問題は実はまだ何も終わっていないのである。

碧桂園の倒産危機

8月に入ってから中国の不動産会社である碧桂園の株価が急落している。8日に社債保有者が碧桂園から利払いを受けていないとReutersが報じた。その後10日に、碧桂園は2023年1-6月期の最終損益が最大550億元(1兆円強)の赤字になるとの業績予想を発表した。

碧桂園の株価は以下のように推移している。

決算書によれば、碧桂園は2022年末時点で3,059億元の流動純資産を持っている。だが不動産ディベロッパーである碧桂園がバランスシートに計上する流動資産の多くは工事中の建物であり、あまり流動的とは言い難い(簡単には売れない、というか基本的には出来上がらないと売れない)資産である。

一方でキャッシュフロー(流動資産のうち現金)は1,283億元であり、企業は資産があってもキャッシュが尽きて取引先や債権者に現金を払えなくなれば死ぬ。

そこに2023年1-6月期の550億元の損失が降り掛かったことになる。だがここでもやはり損益とキャッシュフローは別概念であり、会社はまずお金を払って人を雇い原材料を買って商品を作ってそれが売れてからようやく現金が手に入るので、キャッシュ1,283億元に対する550億元という損失の数字が表現する以上のキャッシュフローの不足が発生したのだろう。

何も終わっていない中国の不動産バブル崩壊

だが碧桂園の経営危機の具体的な内容はそれほど重要ではない。碧桂園がこのまま死ぬかどうかもどうでも良い。2021年に破綻がほぼ確定していた恒大集団さえ債務超過(つまり資産より負債の方が多い)になりながらもまだ生きているのだから、碧桂園も中国政府が延命を望む限り生きてはいられるだろう。

重要なのは碧桂園が損失を垂れ流している理由である。碧桂園は損失悪化の理由に「不動産の販売不振」を挙げている。要するに2021年には表面化していた中国の不動産バブルの崩壊はまだ続いているわけである。

中国の経済統計は信用できないが、だからこそ各企業の決算が非常に重要になる。GDPは誤魔化せるが、企業は金がなくなったら金がなくなったと言わざるを得ないからである。

中国政府は必死にこの問題をどうにかしようとしているようだ。最近中国政府は地方政府の融資平台の債務の一部を公債に移し替えると発表した。融資平台とは地方政府のシャドーバンキングを担当する投資会社であり、地方政府が資金調達をして不動産開発を行ない、地方政府の官僚が自分の地域のGDPを数字上嵩上げして中国共産党から評価されるための仕組みとして機能してきた。

結果として出来上がったのが使用されない大量の不動産と膨大な非公式の債務である。公共事業をすればGDPの数字はその分だけ上がるが、実際には無駄な箱物が積み上がったところで国民には何のプラスにもならない。だがGDPの増加を建前に政治家は意味のない債務増加を繰り返してきた。互いに憎み合っている中国共産党と日本の自民党は実際にはよく似ている。

地方政府の債務とは公式には異なる融資平台の債務はIMFの推計で66兆元と言われており、中国のGDPが122兆元なので、GDPの半分以上の規模となっている。

中国政府の戦法は、この隠れ債務を別の長期の債務に借り換えさせる方法のようだ。だが当然ながらそれは問題の先送りに過ぎない。時間が経てば問題が解決するならば良いが、不動産市場においては次々とデフォルトの危機が迫ってきている。

習近平氏が経済を理解できる人材を政権から排除してしまったので、彼らにできることはその程度である。

結論

中国経済の崩壊は長い時間をかけて進んでいるようだ。2021年に恒大集団、2023年に碧桂園である。そしてそれは地方政府の官僚が出世のためにこぞってGDPを嵩上げしようとして作り上げた不動産バブルとシャドーバンキングの問題のクライマックスなのである。

このように、問題が大きければ大きいほど、緩慢にしか崩壊しないのである。中国の不動産問題は数年かけて崩壊するだろう。

同じように、アメリカのインフレの問題も緩やかにしか進まない。2020年に金融市場で始まったインフレの兆候が2022年にクライマックスを迎えたように、2022年に始まったインフレ抑制と経済減速は2024年にクライマックスを迎えるだろう。

あるいは、そうならなければインフレは止まらずインフレ第2波へと繋がってゆくだろう。

中国の不動産の問題が実は何も終わっていないように、アメリカでもまだ問題は何も解決されていないと見るべきである。何処の政治家も本当によく似ている。