アメリカのインフレ率の下落予想を的中させたDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が、CNBCのインタビューで今後のインフレ動向を予想している。
ガンドラック氏のインフレ率低下予想
ガンドラック氏が先ず語っているのは最近のインフレ率である。アメリカのインフレ率は去年秋の9%から現在3.1まで下がっている。
これを一番的確に予想したのがガンドラック氏である。
だが最近の彼の予想でガンドラック氏がもっとも褒められるべきなのは、コアインフレ率をインフレ率全体に対する遅行指標であると指摘して、コアインフレ率も次第に下落してくると予想したところだろう。
そしてコアインフレ率は次のようになった。
見事と言うほかない。
上昇する住宅価格
ガンドラック氏はCPIなどの数字に触れて、インフレが実際に落ち着いてきたことを確認している。
だが、読者も知っての通り、経済指標の中にはまだインフレ的なものが存在している。例えば住宅価格である。
ガンドラック氏は次のように述べている。
驚くべきことに住宅価格は4ヶ月連続で上昇している。
ケース・シラー住宅価格指数は次のようになっている。
ガンドラック氏はそれでもデフレ側の予想のようだ。彼は住宅価格の上昇について次のように説明している。
その理由はスプレッドがとても大きく開いているからだ。売り手はかなりの高値でなければ売りたくない。
住宅市場ではほとんど取引がされていない。
取引数が少ないので最近の上昇はあてにならないという主張である。彼はこう続けている。
こうした動きを将来を予想するものとして捉えることが出来るかは疑問だ。取引数があまりに少ないので、ひとたび売りに走る理由ができれば、大きく上がった住宅価格が下落方向に動き出す可能性がある。
インフレ率の今後の動向
住宅価格の上昇をガンドラック氏が言うように単にノイズとして捉えて良いかは微妙である。
しかしCPIの内訳だけを見れば、完全にデフレ的と言っても良い状況であり、そうなればガンドラック氏が以前持ち出していた問題が頭をよぎってくる。インフレが9%から3%まで落ちるならば、果たして都合よく2%で止まってくれるのかという問題である。
ガンドラック氏は次のように述べていた。
何故2%で止まるのか? そこに何か魔法でもあるのか?
インフレ率を9%から3%まで下落させた引き締め効果が本物であれば、引き締めを緩めなければインフレ率はそのまま下に行ってしまう可能性が高い。
ガンドラック氏は、2021年に上昇を続けていたインフレをパウエル議長が見逃したように、パウエル氏が今回もインフレ率の下落を過小評価するのではないかと予想している。
彼はこう述べている。
パウエル氏はインフレ上昇が一時的だと言った時の失敗を繰り返している。インフレ率はこのまま下がり続ける可能性がある。
結論
一方で住宅価格は上がっている。しかしCPIは文句なくデフレ的である。
これをどう考えるか。筆者はこれから半年ほど、インフレ率がこのまま下がり続ける一方で、それに合わせて金融政策を緩和側に寄せると住宅価格や金融市場におけるコモディティ価格が上がってゆき、CPIのインフレが下落を続けるなか、緩和によって市場ではインフレ第2波の種がまかれるという可能性を考え始めている。
金融市場のインフレとCPIのインフレにはタイムラグがある。アメリカでインフレ率は2021年に上がり始めた一方で、筆者が金融市場でエネルギーや農作物の価格が上がっているのを見てインフレの問題に初めて言及したのは2020年である。
だからこれからのCPIのインフレ率下落に緩和で対応することによって、インフレ第2波が金融市場から始まるということが有り得る。あるいは中央銀行が対応しなくても、長期金利が下がってそうなることは有り得る。
何度も言っているが、いずれにしてもインフレ抑制が本当に難しいのはインフレが下がってからである。インフレ抑制が万事すべて上手く行ったと思わないことだ。