ポジャール氏: アメリカは利下げしない、原油価格は150ドルまで行く

引き続き元クレディスイスの短期金利戦略グローバル責任者のゾルタン・ポジャール氏の、Bitcoin 2023におけるインタビューである。今回はアメリカの利上げとエネルギー価格について語った部分を取り上げたい。

インフレ抑制

アメリカはインフレ対策で大幅な利上げをした。元々政府がコロナ後の現金給付によって自分で引き起こしたインフレなのだから、それを抑制することは自分で放火してから火を消すようなものだが、ともかくアメリカは5%の大幅な利上げを行なった。

だがポジャール氏は、Fed(連邦準備制度)がインフレを抑制できるとは考えていないようである。彼は次のように述べている。

パウエル議長はインフレを抑えようとかなりの努力をしている。だが彼は不可能な仕事を負わされていると思う。

何故か。ポジャール氏がそう言うのは、パウエル氏が十分な利上げを行えないという理由ではない。仮に彼が全力を尽くしても、それでも対応できないような状況もあるということをポジャール氏は言いたいのである。

彼は次のように述べている。

ヘロドトスの有名な言葉に、状況が人を支配する、人が状況を支配するのではない、というものがある。人はただある状況にパラシュート降下して、落ちたところの状況に対処しなければならない。

例えばコロナが降ってきてそれに対応しなければならなくなったように。ポジャール氏はパウエル氏の意志の問題よりも、コントロールできない要因の方が大きいと言っているのである。

インフレと実質金利の現在の状況

もう少し現在の状況に目線を落としてみよう。ポジャール氏は次のように言う。

彼ができる限りのことをして、それでインフレ抑制に必要なだけの引き締めができると祈りたいが、それにも既に疑問符が付き始めている。利上げは停止されそうだからだ。

Fedは5%の利上げを行なった後、利上げを停止して状況を見守ろうとしている。5%の利上げは十分だろうか? 多くの人がそれを大きな金融引き締めだと思っている。だがポジャール氏は次のように指摘する。

引き締めとは言うが、それは未来に対して引き締め的だということだ。実質金利は未来に向けてプラスになっているが、現在に対してはそうなっていない。われわれはいつも引き締めが将来やってきてインフレを抑え、実質金利がプラスになるのを待っている。

これがどういうことかは、説明が必要かもしれない。

実質金利と言っても色々ある。金融市場が一番気にするのは、10年物のインフレ連動債の金利であり、それは今後10年の金利から今後10年の市場のインフレ予想を引いたものである。

この今後10年の実質金利は、市場がかなり低いインフレ率を予想しているためにプラスになっている。だがそれは今後10年の市場の期待インフレを採用したからそうなるのであって、現在のインフレ率は5%であり、政策金利とほぼ同じであるから、その意味では実質金利はプラスになっていない。

ポジャール氏は次のように言う。

Fedはいつも状況がどう推移するかを先に見ようとする。

だが残念ながら、Fedのインフレ予想が当たったためしはほとんどない。2021年、筆者を含む多くの投資家がインフレを警告していたにもかかわらず、パウエル氏は「インフレは一時的」という念仏を根拠なく繰り返していた。

年内の利下げはない

ポジャール氏は今年後半の金融政策について次のように言っている。

間違いなく利下げはない。利上げ停止は利下げではない。利上げ停止は将来の利下げのための待合室ではない。ガードレールをたくさん立てて、それで状況が収まるか見ようということだ。

しかし状況が収まるか見るということは、状況に身を任せるということだ。そしてポジャール氏によれば、状況が今後1、2年安定的に推移するということはありえない。

彼は次のように主張する。

だが過去2年、インフレを動かす原因となったのが数多くの唐突な出来事だったという現実から目をそらすべきではない。コロナは唐突だった。コロナに対する経済政策も唐突だった。それはやりすぎだった。ウクライナ戦争と地政学的な変化も唐突だった。

今後1年から2年の間唐突なことは何も起こらないというインフレ予想? 大きく出た予想だ。だが現実の世界は、唐突なことが起こらない世界ではない。

必ず何かが起こるだろう。その点においては筆者もポジャール氏に同意する。

だが筆者はシリコンバレー銀行破綻に始まる銀行危機の継続、つまりデフレ側のサプライズを予想している一方で、ポジャール氏はインフレ側のサプライズを予想しているらしい。

ポジャール氏は次のように述べている。

Fedの行動に影響を与えそうなことはいくつもある。もし食料価格やエネルギー価格が天井を超えて上がって行ったら?

原油市場は供給不足だ。景気後退が来て原油価格が下がるが、結局供給が足りないのでその後150ドルまで上がるかもしれない。それが原油市場のいつものダンスだ。

リーマンショックの後も、コロナショックの後もそうなった。コロナショック後の原油価格については以下の記事が面白いかもしれない。

ポジャール氏と筆者、どちらが正しいだろうか。もしかしたらどちらも正しいかもしれない。銀行危機の継続とエネルギー価格の高騰の両方が来たら、その結末はスタグフレーションである。

レイ・ダリオ氏のシナリオ通りではないか。恐らくそれが正しいのだろう。投資家は身構えておく必要がある。