クレディスイスの短期金利戦略グローバル責任者だったゾルタン・ポジャール氏が、Bitcoin 2023においてアメリカの破綻した銀行であるシリコンバレー銀行とファーストリパブリック銀行の違いについて語っている。
ポジャール氏のクレディスイス離脱
ポジャール氏の話に入る前に、まず何故彼の経歴が過去形になっているのかについて話そう。
ポジャール氏は去年8月の時点で、現在のアメリカの金利水準を的確に当てていた、筆者が推している天才アナリストである。
だが筆者は彼の所属がクレディスイスであることをあまりに勿体ないと日頃から思っていた。そしてクレディスイスは潰れて同じスイスの同業であるUBSに買収された。クレディスイスの破綻については以下の記事に少し書いてある。
そしてポジャール氏はどうやらこのごたごたでクレディスイスから抜けたようなのだ。公式発表はないが、所属を「未定」と書いたネームタグを付けて会議に参加しているところを目撃されている。
それでポジャール氏がどうなるか(彼ならばすぐに良い職場が見つかるだろうが)気になっていたのだが、恐らく今回のインタビューはその後初めてのものだろう。
アメリカの銀行危機
さて、今回のインタビューは最近の銀行危機の話題から始まる。ポジャール氏にうってつけの話題だったのだが、上記のごたごたで彼はまだ銀行危機についてコメントしていなかったからである。
アメリカの銀行危機において一番最初に潰れたのが、シリコンバレー銀行である。
その後に続いてファーストリパブリック銀行などの他の銀行が破綻した。
だが、ポジャール氏によれば、これらの銀行が潰れた理由は必ずしも同じではないという。
彼はまずシリコンバレー銀行について次のように語っている。
シリコンバレー銀行は、不幸な債務の構成を持ち合わせてしまった例だ。シリコンバレー銀行はベンチャーキャピタルやハイテク投資家を多く顧客に持っていた。
金利が上がり始めた結果爆発したセクターといえばグロース株で、その筆頭がハイテク株だ。だから主要な顧客がまず資金を銀行から引き上げ始めたわけだ。
アメリカはインフレ対策で金利を上げた。そして金利が上がって真っ先に死んだのが、これまでゼロ金利で延命されていた利益を上げられないゾンビ企業であり、アメリカのシリコンバレーにはそういうスタートアップが大量に存在していた。
だから銀行危機の最初がシリコンバレー銀行だったのは必然だったのである。
しかもシリコンバレー銀行の不幸はそれだけではなかった。ポジャール氏は次のように続ける。
一方で、シリコンバレー銀行はベンチャーキャピタル向け融資や長期の債券を抱えていて、それらをリスクヘッジすることもできずに価格は下がっていった。
だから資産と負債の両方の面で状況が悪化した。
金利上昇で特に価格が下がったのが、シリコンバレー銀行の抱えていた長期の債券である。
預金は引き出され、持っていた債券の価格が下落した。ハイテク企業と取引していたことも、元々低金利が続いていた状況で比較的金利の高い長期債を保有していたことも、どちらもそれほど愚かな行ないではない。シリコンバレー銀行はインフレと金利高騰の犠牲者である。
ファーストリパブリック銀行
だがポジャール氏によれば、その後に破綻したファーストリパブリック銀行は事情が違うという。彼は次のように述べている。
ファーストリパブリック銀行は別の話だ。金利オンリーローンについては聞いたことがあるだろう。
金利オンリーローンとは、少なくとも一定期間元本を返済せずに金利だけ支払っていれば良いローンのことであり、ファーストリパブリック銀行は富裕層を顧客に取り込むためにそうしたローンを提供していた。
一定期間元本が返ってこないわけだから、ファーストリパブリック銀行に現金が無くなったのは当然である。普通に営業していたらインフレと金利高騰が直撃したシリコンバレー銀行とは違うというわけである。
ポジャール氏にはファーストリパブリック銀行から不動産ローンを借りた友人がいたらしく、早速次のようにアドバイスしたらしい。
今度うますぎる不動産ローンを受けた時にはその不動産ローンをくれた銀行の株を空売りしよう。
結論
ということで、アメリカの銀行危機のちょっとした詳細について今回はお伝えした。ちなみに言っておくが、銀行危機は終わっていない。次に破綻するものが銀行か別のものかは分からないが、危機を引き起こした前提はそのまま存在しているからである。
一方でポジャール氏はこのインタビューで他の様々な話題について語っているので、次回以降それもお伝えするつもりである。楽しみにしていてもらいたい。