2023年、他の銘柄があまり強いトレンドを形成していない一方で、ここ半年ほど継続して上がり続けている資産クラスが存在する。ゴールドである。
これまでの金価格の推移
まずは金相場のこれまでの動きを振り返ってみよう。2022年からのチャートは次のようになっている。
下がってから上がっている。
まず2022年の春頃から下がった理由は、言うまでもなくFed(連邦準備制度)による金融引き締めである。
金融引き締めは2つの点で金価格にとってマイナスになる。まずはドルの金利が上昇することで、金利が付かないゴールドの魅力が相対的に減ることである。投資家が高金利に惹かれてゴールドからドルに乗り換えることで金価格が下落する。
そしてもう1つは、金融引き締めはインフレ抑制のために行われており、インフレ(ものの値段が上がること)はゴールドの値段にもプラスになるのだから、インフレを抑えると金価格も抑えられるということである。
だから金価格は2022年春の高値から20%以上下落した。
アメリカのインフレ率と金価格
しかし金価格は秋頃から急反発している。
去年秋に何が起こったかと言えば、それまで上昇を続けていたアメリカのインフレ率が減速し始めたのである。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏らの予想通りであり、アメリカのインフレ率は今彼が予想していた水準にかなり近づいている。
だがアメリカのインフレ率が下がると何故金価格が急反発するのか? インフレ減速は金価格にとってマイナスではなかったのか?
そこには実体経済と金融市場の時間差がある。実体経済の側でインフレが減速すると、中央銀行が引き締めの手を緩めるため金利が下がり、将来的にはインフレが期待されることになる。短期のデフレが長期のインフレに繋がるのである。
だからインフレが長期的にどうなるかということが今の金相場に影響を与える。そして物価高騰の時代では、1970年代にそうだったように、インフレは何度もの波になって押し寄せてくることが懸念される。1970年代のアメリカのインフレ率は次のようになっている。
そして以下が今のインフレ率である。
インフレと金相場の長期的展望
今後インフレはどうなるのか。金価格が上がっているということは、少なくとも金相場はインフレ第2波を想定しているように見える。実際、多くのファンドマネージャーらがFedのパウエル議長がインフレ打倒をやり遂げられることを疑い、インフレ第2波をメインシナリオとしている。
- ジョン・ポールソン氏、インフレ第2波で金価格高騰を予想
- 世界最大のヘッジファンド: 金融引き締めで経済恐慌かインフレ第2波で経済リセット、どちらになるか?
- ドラッケンミラー氏: 経済が強い時に引き締めを続けるのは簡単だが
筆者もそちらがメインシナリオだと思っている。
インフレ第2波がメインシナリオだとすれば、ゴールドを予め買っておくことは最善手だろう。だがゴールドには懸念もある。景気後退で株安になるならば、リスクオフは実はゴールドにとってマイナスだからである。
例えば2008年のリーマンショック時の金価格の推移を見てみると良い。株価の下落と同時に金価格も下落している。
そこで筆者は金価格の上昇よりは、金利の低下に賭けることにした。金利の低下は債券価格の上昇を意味するので、2年物の米国債を買ったのである。
今後の政策金利の推移を織り込んで動く2年物国債の金利は、最近のインフレ減速のために低下している。
筆者の予想通りに推移しているため、このトレードも利益を出してくれているのだが、去年後半からの金価格の上昇の方がパフォーマンスの良いトレードとなっている。
金価格と株式市場
何故そうなっているかと言えば、株式市場がまだそれほど下がっていないからである。
だがそれにしても金価格のパフォーマンスはずば抜けている。株価はそれでも下がっているのに、何故金価格のパフォーマンスがここまで良いのか? それは例えば1970年代の物価高騰時代のうち、株価が半分近くまで下落した1973年から1974年の金価格の推移を見れば分かる。
まずは当時の株価の推移を見てみよう。S&P 500のチャートは次のようになっている。
株価はずっと下落基調ではあるが、激しく下落したのは1973年後半と1974年半ばである。
そして同じ時期の金価格を見てみると、次のようになっている。
株価が激しく下落した期間については金価格も下がっているが、その他の期間は株価の下落にもかかわらず上がっており、全体を通して見れば大きな上昇となっている。
その理由は、以下の記事で検証した通り、長期のインフレの期間においては貴金属の価格は物価自体の上昇率を超えてバブルになってゆくからである。
確かにリスクオフで金価格は下がるのだが、この長期の貴金属バブルというトレンドが強すぎるため、期間全体で見れば上昇トレンドを継続することになる。
結論
ということで、現在の金価格の上昇の理由はこれで説明できたと思う。
それでも1970年代にそうだったように、景気後退で株価が急落すれば金価格は一時的に下がるだろう。
筆者は株価の急落がピンポイントでいつかを予想することは出来ないと考えたため、より安全な金利予想のトレードに行ったが、筆者らのメインシナリオであるインフレ第2波にこのまま向かうのであれば、インフレで金価格高騰という素朴な(しかし非常に強力な)シナリオを信頼してゴールドに賭けた投資家が結局は一番の勝者ということになるだろう。
筆者も仮に金価格が短期的に下落することがあれば参入したいと考えているが、その機会において金価格が今より安くなるかどうかは分からない。
その時に金価格が高値に行ってしまっているのであれば、より分が悪いが割安になっていると思われる農作物の方に行くかもしれない。
いずれにしてもインフレ第2波ならば長期的にはゴールドは最高のトレードである。ゴールドを信じられた投資家たちに拍手を贈りたい。