サマーズ氏、トランプ元大統領の起訴について語る

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、ドナルド・トランプ元大統領の起訴について話している。

トランプ氏の起訴と出頭

4月4日、トランプ氏はマンハッタン州の大陪審によって起訴され、マンハッタン州の裁判所に出頭した。

起訴内容は、元ポルノ女優ステファニー・クリフォード氏に支払った口止め料を事業費として計上したことが犯罪にあたるということらしい。

このトランプ氏の起訴について、トランプ氏の政敵である民主党を支持しているサマーズ氏は慎重に次のように述べている。

これらの起訴に関連する事実についてわたしは何も知らないが、元アメリカ大統領を含むすべての人が、推定無罪の適用を受けるべきだ。

この件に関するすべての当事者、トランプ元大統領および支持者たちと起訴を行なっている人々の両方が、政治をこれらのことから切り離し、尊重されているのは法の支配であり政治的側面ではないという安心感を与えられるように行動してほしい。

民主党支持者とはいえ、サマーズ氏はトランプ氏の口止め料について何も知らないので当然の言い方だが、一方でこの件については共和党支持者からは政治的な起訴だとの声が上がっている。

筆者もこの件については何も知らないが、少なくとも言えることは、大半の政治家はこのトランプ氏の起訴内容以上のことをやっているということである。例えばオバマ政権時代に副大統領としてウクライナ政府を私利私欲のために良いように使っていたバイデン氏と比べてトランプ氏の方が悪かどうかは不明だろう。

だが政治家はそういう理由では逮捕されない。ブッシュ元大統領は「イラクは大量破壊兵器を持っている」という虚偽の主張によってイラクを攻撃し、親米政権を打ち立てて元々のイラクの大統領を死刑に追いやったが、それでもブッシュ氏は捕まっていない。

死刑になったフセイン大統領は「ブッシュこそ犯罪者」と言っていたが、それは的を射ている。だが政治家はそれでも捕まらない。

トランプ氏起訴の政治的影響

だから筆者はトランプ氏の起訴内容自体には興味がない。一方で、この起訴は2024年のアメリカ大統領選挙に大きな影響を及ぼしそうである。

まず、トランプ氏の支持率が上がっている。Reuters/Ipsosの3日のアンケート調査によれば、共和党支持者におけるトランプ氏の支持率は44%から48%に上がり、対抗馬として注目されているデサンティス氏の支持率は30%から19%に下がった。

つまり、2020年大統領選挙の結果を否定するという自滅戦略で政治的に半分死にかかっていたトランプ氏をこの起訴が復活させている。

トランプ氏自身がこの起訴を魔女狩りと読んでいるが、CNNのアンケート調査では76%のアメリカ人がこの起訴を政治的なものと見なしている。政治的な裁判の被害者となりそうなトランプ氏の支持が増しているのである。

ちなみにこの76%という数字は政敵であるはずの民主党支持者も含んでいる。何故かと言えば、起訴した検察官が明らかな反トランプの民主党支持者だからである。

トランプ氏を起訴したアルビン・ブラッグ検事

そもそもニューヨーク州は民主党の牙城であり、そこの検事は基本的に民主党支持者である。トランプ氏を起訴したアルビン・ブラッグ検事は2022年1月の選挙で主任検事に選ばれたが、この選挙で争点となっていたのはトランプ氏の起訴をどう扱うかだった。

民主党の州であるニューヨーク州で主任検事に選ばれるためには、反トランプ的な主張が求められる。当時、まだ確定していない事項について多くの候補者が明言を控えた一方で、ブラッグ氏は2018年にトランプ氏の財団を起訴した経験から、トランプ氏逮捕に向けて自信をほのめかしていた。

つまりはトランプ氏を起訴した検事は、元からトランプ氏の起訴を公約にして主任検事となったようなものなのである。

来るところまで来ているアメリカの政治的混乱

西洋諸国ではロシア政府の反体制派に対する扱いをよく批判するが、この件について1つ言えることがある。アメリカの政治はそれにかなり近いところまで来ているということである。

サマーズ氏に話を戻そう。彼はこの件を政治からは切り離すことの重要性を訴えた後、次のように述べている。

何故ならば、成長する市場経済を持てるかどうかは司法に対する信頼があるかどうかにかかっているからだ。

中国に対して投資を考えるときに障害になるのは、中国政府が自由市場経済に介入する可能性である。金融市場は政治家が恣意的に介入することを嫌う。逆に言えば、そういう市場から投資家は逃げてゆく。

だからこのトランプ氏の起訴は、2024年の大統領選挙に大きな影響を持つだけではなく、アメリカという国の政治(そして長期的には経済)がかなり怪しくなってきたことを示している。ウクライナ情勢におけるドルの武器化だけでもドルから他国が離れようとしているのに、アメリカ経済はどうなってしまうのか。

結論

この状態を予め予想していた人物がいる。Bridgewater創業者のレイ・ダリオ氏である。

ダリオ氏は、2024年の大統領選挙で(トランプ氏だけではなく)アメリカ国民が選挙結果を認めないような状況になることを以前から予想していた。

少し前まではそんなことは有り得そうもないと思えていたかもしれない。だが仮にトランプ氏が民主党員のブラッグ検事によって逮捕された場合、共和党支持者は2024年の選挙を有効なものとは認めないだろう。

ダリオ氏はそこからアメリカが内戦状態に陥ることさえ予言している。筆者が「西洋文明の長期自殺トレンド」と呼ぶトレンドが着実に進行している。アメリカとヨーロッパはどうなってしまうのか。楽しみに結果を待ちたい。