世界最大のヘッジファンド、銀行危機の株価暴落と金融緩和への発展を予想

シリコンバレー銀行の破綻が世界的な銀行危機へと発展しているが、今日は世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のブログから、株価と金融政策の予想を書いた部分を紹介したい。

世界的な銀行危機に

シリコンバレー銀行とシグニチャー銀行の破綻に続き、アメリカではファーストリパブリック銀行、ヨーロッパではクレディスイスの危機が話題になっている。

一気に金融危機の様相である。何故こうなったのか? 以下の記事でも説明したが、まず第一の理由は、インフレ対策の金融引き締めの目的そのものが世界に存在する預金の量を減らすことにあるからである。

もう何度も説明したことだが、現在の物価高騰の本当の原因はコロナ後の現金給付であり、ウクライナ情勢ではない。

お金をばら撒いてインフレになったのだから、それを解決するにはばら撒いたお金を金融引き締めで回収するしかない。だがそうすれば経済全体に存在する預金の総量(より正確にはマネーサプライ)が減ってゆく。そして銀行は資金不足に陥る。

債券暴落が銀行株暴落に繋がっている

だが銀行の問題はそれだけではない。彼らは預かった預金で債券などの資産を買っている。そして去年には金融引き締めで債券価格は大きく下がった。

ダリオ氏は次のように説明している。

銀行のような金融の仲介者たちは崩壊しつつある資産バブルに対してもっとも大きく信用買いしているので、現在の状況に特に影響されやすい。

信用買い、つまり人から借りたお金で資産を買っていることが問題となる。そしてそれは銀行のビジネスそのものである。

金融引き締めは資金の借り手に大きな影響を及ぼす。買っている資産が暴落する一方で、借りている借金には大きな金利が付いてしまうからである。こう書けば今銀行が危機に瀕している理由が分かるだろう。

だから筆者もずっと言い続けているように、アメリカの歴史上2番目の規模の銀行破綻となったシリコンバレー銀行の破綻は氷山の一角に過ぎない。ダリオ氏も次のように言っている。

現在はまだ経済縮小トレンドの序盤なので、世界中で信用買いされている資産の量を考えると、シリコンバレー銀行の破綻の後に多くの問題が続く可能性が高い。

まだ序盤なのである。問題は始まったばかりであり、何も終わっていないし、何もほとんど始まってすらいない。にもかかわらず巷では大騒ぎになっている。

暴落相場の始まり

これからどうなるか。財政不安に陥ったシリコンバレー銀行のような企業はどういう行動を強いられるか。彼らは保有資産を売って現金を確保することになる。実際、シリコンバレー銀行はそうしたが、現金は結局足りなかった。

だがここで考えなければならないのは、こうした瀕死の企業が資産をどんどん売れば、資産価格は更に下落するということである。

この問題がどういう結末を迎えるについて、ダリオ氏はいくつか箇条書きにしている。彼は次のように続ける。

多くの経済主体が資産を非常に低い価格で売ることを強いられ、多くの損失が報告され、資金の貸し出しの更なる縮小に繋がる。

この意味で、この暴落トレンドは「自己強化的」なのである。資産価格が下落するほど銀行や企業が窮地に陥り、銀行や企業が窮地に陥るほど資産は更に売られてゆく。

そして株式投資家に重要なのは次の部分だろうか。

株価の価値低下。例えば株価が将来のキャッシュフローの現在価値を保守的に評価した価格よりもかなり低い値段で売られる。

米国株の動向

現在、米国株は次のように推移している。

筆者の計算では、この株価にはまだ現在の高金利どころかこれまでの低金利による底上げ分が乗ったままである。

リーマンショックから10年以上続いた低金利相場では、株価は「保守的な評価」からかなり底上げされた形で取引されてきた。だがダリオ氏は株価が今度は保守的な評価よりもかなり低い値段で売られると言っている。

他のファンドマネージャーの従来からの見方と同じである。

中央銀行はどう動くか

こうした状況に対してFed(連邦準備制度)はどう動くだろうか。インフレ打倒のためにこれまで続けてきた金融引き締めはどうなるのか?

ダリオ氏は次のように結論している。

問題がシステム全体を脅かし、Fedは緩和、銀行規制当局は資金と信用と保証を余儀なくされる。

これまでは金融緩和よりも金融引き締めが適切のように見えた。だがこれから問題が持ち上がり、Fedと銀行規制当局が救済に動かなければならなくなるまでそれほどかからない可能性がある。

ダリオ氏の結論は緩和である。シリコンバレー銀行の預金者の預金を保護したことが既に緩和になっているというジェフリー・ガンドラック氏の議論もある。

Fedはこの件でGDP1%分の貸付を行なっており、それだけでも結構な額なのだが、それはまだ局所的な緩和である。

それは利下げと量的緩和という本格的な金融緩和に発展し、例えばジョン・ポールソン氏の言うような金価格高騰へと繋がってゆくのだろうか。

ダリオ氏は次のように纏めている。

経済縮小の今の段階ではFedが緩和するには早いが、システム全体への脅威と救済の副作用のトレードオフが難しくなるにつれて彼らがどうするかを注視しよう。